札幌発 旅人通信 99年初夏 創刊号

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 皆様、如何お過ごしでしょうか。
 私ことMasa. C.、この夏で早くも、北海道移住五周年となります。五年と言っても、その間には、一口では言い尽くせぬ様々な出来事がありました。北海道に憧れ、故郷横浜での職を辞し、単身札幌にやって来たのが平成6年、1994年夏のことでした。その翌年、地場企業の引越専門会社に就職したものの、待遇面での本州企業と比較してのあまりの立ち遅れに閉口することの連続で、一年足らずで退社。平成8年、本州系大手コンピューター販売会社の系列物流会社への就職が叶うものの、業績不振を理由に一年足らずでリストラの憂き目に。その後は、運送業でのキャリアを生かし、盆と暮れには宅配便の仕事を、春から夏にかけては、十数年前のフリーアルバイター時代にもしたことのある、道路区画線工事の仕事をし、それらの谷間は、旅に明け暮れるという、いわゆるフリーター生活です。

 しかしながら、それが、北海道に移住をしてまでしたかった生活かというと、正直?というのが本音ではあるこの頃です。しかし、生活をする上では、やはり北海道は素晴らしいところであり、離れ難い場所であることも否定できません。となれば、ここにしがみつき、生きて行くしかないのでしょう…
 そんな私の、現在と、その心の叫びを、少しでも皆様に伝えることができたなら、と思い、この通信を創刊する運びとなりました。どうか、おつきあい下さいませ…


 

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 北海道&旅人、ナウ

 

 本州では、いよいよ東北まで梅雨に入りましたね。ジメジメと蒸し暑い季節の到来ですね。あの鬱陶しさは、横浜で生まれ育った私には、当然心に焼きついていますが、津軽海峡を越えたここ北海道に、梅雨はありません。稀に“えぞ梅雨”と呼ばれ、6月から7月にかけて雨の多い年もありますが、本州の梅雨のような蒸し暑さとは縁遠く、不快指数は知れたものです。
 遡れば、この冬は、雪の多い冬でした。札幌では昨年、12月に入って間もなくまとまった雪に見舞われ、そのまま根雪となりました。1、2月もコンスタンスに降り、3月に入り、だいぶ雪融けが進んだか、と思うとまた降る、といった感じを繰り返し、結局、札幌の一冬の降雪量としては、観測史上三番目の多さだったということです。観測史上最高を記録し、市内の道路交通がマヒ状態に陥った平成7年から8年にかけての冬のように、“ドカ雪によるパニック”がほとんどなかったのは救いですが、それだけ、除排雪体制が確実なものになったということでしょう。
 ゆえに雪融けも例年より遅れ、札幌で残雪ゼロが宣言されたのは、4月の統一地方選挙直前のことだったと記憶しています。さらに、その雪の多さゆえ、雪融け時季に雪崩や土砂災害が全道各地で頻発したのも記憶に新しいところです。桜の開花も例年よりやや遅く、さらに4月下旬から5月にかけても気温の低い日が多く、札幌の桜の名所、北海道神宮の森では、寝袋や毛布にくるまっての花見客も見受けられました。私などは、“そこまでしてまで…?”と思ってしまいますが、生粋の北国生まれ、育ちの人たちは、遅い春にようやく満開となった桜の下でジンギスカンを囲わないと、春を迎えた気がしないのかもしれません。
 そんな5月も半ばを過ぎると、日中は20℃を越える日も多くなり、ようやく、北海道がもっとも輝く季節となりました。何しろ、5月上旬から7月半ばまでの約二月で、一気に春から夏へと季節が進行するのですから。先にも述べた通り、梅雨がなく、かつ、そうなのです。その躍動感は筆紙に尽きますが、大袈裟に言えば、日一日、季節が進行するのが感じ取れるほど、とでも言いましょうか…こればかりは、こちらで生活をしてみない限り、決して感じることはできないでしょう。しかし、こちらで生まれ育った人々は、それを特別なことと捉えるでもなく、当然のように受け流しているのが、私には羨ましいというべきか、勿体無いというか…

 さて、旅人は、最近マウンテンバイクを購入しました。先日、果敢にも支笏湖へのツーリングへチャレンジ。自転車で長距離を走ることなど、実に高校生の頃以来。息は上がるは膝は痛くなるは…と楽な道程ではありませんでしたが、札幌から三時間半で無事支笏湖畔へ到着。急ぐ旅でもないので、帰路は千歳へ抜け、スーパー銭湯で疲れを癒し、寝袋で一泊し、翌日のんびりと札幌へ。その後は定山渓を往復したり、車にMTBを搭載し、サロマ湖畔を走ってみたりと、すっかりはまっています。ともあれ、自転車で長距離を走るようになってから、体調の方も実にいいようです。もちろん、平坦地をタラタラ走っても運動効果には乏しいので、次は、中山峠を越えて函館まで走り、フェリーで東北にまで足を伸ばせたら、と考えています。果たして、いつ実現できるか…?

 どうもこのところ、明るい話題には乏しい北海道ですが、季節の移ろいだけは、大きく変わることはなく繰り返されています。6月に入ると夏日も記録されるようになり、新緑も鮮やかとなってきました。もちろん、夏日といっても本州のような蒸し暑さとは無縁で、快適な日々です。
 北海道同様、私自身も、どちらかといえば冴えない日々が続いていますが、前向きさだけは忘れることなく、過ごして行きたいと思います。これからも、応援よろしく!

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 連載・岬をめぐる道

 

 日本最東端、納沙布岬から、太平洋岸の忘れられたような岬をめぐる

 ある冬の夜、根室市街から納沙布岬を目指した。かつて、北洋サケマス漁の最前線基地として繁栄を謳歌したこの街も、遠洋漁業の衰退で、往時の賑わいはない。街の規模の割に、飲み屋のネオンがやたらに目立つのは、かつての繁栄の名残りか。冬ということもあろうが、夜となれば行き交う人も疎らで、しかも、日本人よりロシア人の姿が目立つ。ロシア船による水産物の輸入は年々増加傾向にあり、ここ根室をはじめ、釧路、紋別、稚内、小樽といった港町では、かつては考えられなかったほど、ロシア人船員の姿を見るようになった。北海道に於ける最も身近な外国は、間違いなくロシアなのである。
 納沙布へ向かうには、太平洋を右に見る南回りルートと、根室海峡を左に見て進む北回りルートがある。この日は、北回りルートを選択する。 根室の市街を過ぎると、人家はまったく途絶える。左手には根室海峡が広がっているはずだが、すでに真っ暗で陸と海の区別はつかない。先行車もなく、対向車も現れない。ライトをハイビームにしても、ところどころ凍結したアスファルトの路面と、路肩に立てられたスノーポールの矢印しか目に入らない。まだ午後7時を過ぎたばかりだというのに、全てが眠ってしまったかのような道である。
「果たしてこの先、道は続いているのだろうか…?」
ふと、そんな思いにかられてしまう。全く知らない異国の地に、突然投げ出されたような錯覚にさえ陥る。行けども行けども、真っ暗な闇だけが支配する、夜の岬への道…
 しばらくぶりに対向車が現れると、道は急カーブを繰り返し、寂しい集落へと入った。ここまで来れば、もう岬は近い。夜の岬は、静かに、私と愛車を迎えてくれた。
 翌朝は、雲一つない快晴。沖には、ほとんど起伏のない、板を浮かべたような水晶島、勇留島、秋勇留島が浮かんでいる。北に目を移せば、帯状の流氷帯と、国後島の姿。雪を抱いた島の最高峰、爺爺岳の姿が美しい。これだけすぐそばの島々が、日本の領土ではないとは、俄には信じ難い思いである。だが、ここは国境の海峡。海上保安庁のもののみならず、ロシア船らしき巡視艇の姿も遠くに見える。
 南回りの道を根室へ向かうと、左に広がる太平洋と、よく晴れた空の青さが眩しい。岬を回れば流氷はなく、どこまでも青い水平線が広がる。しかし、集落には出逢うものの、その背後には冬枯れの草原が広がり、風景には潤いがない。起伏に乏しい、平板な風景である。風景に質素という表現は合わないならば、敢て“貧素”なる造語を以て表現したくなる風景である。
 根室から釧路にかけて、国道を逸れて太平洋近くを走る道道に進路を取れば、落石、愛冠、尻羽といった、観光地図からは忘れられたような岬が続く。このあたりは、夏場は霧が多く、晴天の続く冬に旅をするのがいい。道路に積雪はほとんどなく、快適なドライブコースである。また、このコースで釧路に入ると、湿原に広がる平坦な街、という印象の強い釧路にも、小樽や室蘭を彷彿させる坂の街があるということがわかる。
 釧路からさらに南西に進路を取れば、その先は襟裳岬まで、岬と呼べるような大きな突き出しはなく、なだらかな海岸が延々と続く。名もない滝や原生花園、温泉もあり、観光ガイドには載っていない、通好みのドライブルートと言えそうである。

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 連載・北の湯巡り

 第1回 しんしのつ温泉 ニューしのつクラブ アイリス

 北海道は多くの温泉が湧くことで知られているが、全道を見渡すと、地域的な偏りがあることがわかる。有名温泉地がかたまっているのは、道南、道東、そして大雪山を中心とした道央地区であり、道北や、道南と道央の中間に位置する石狩平野周辺は、あまり多くの著名温泉は存在していない。私の住む札幌を含む石狩平野一帯も、古くから拓けていた温泉場としては、定山渓温泉があるくらいで、他は、空知の炭鉱地帯に、幾つかの鉱泉が出ている程度だった。
 ところが、近年のボーリング技術の飛躍的な進歩で、温泉は湧いているものから“掘り当てるもの”となり、石狩平野の温泉地図は一変した。竹下内閣時の「ふるさと創世基金」を使って温泉掘削に成功する自治体が相次いだ影響もあろうが、石狩、空知管内の市町村でも相次いで公営温泉が誕生、今や、同管内では公営温泉を持たぬ市町村を探すほうが難しいような状況となった。石狩平野一帯は、全道でも屈指の温泉密集地帯となったのである。
 そんな、数ある石狩平野の温泉の中でも、私が特に気に入って通いつめているのが、石狩郡新篠津村にある公営温泉「しんしのつ温泉 ニューしのつクラブアイリス」である。
 札幌から新篠津村へ至るには、主に二つのルートが考えられる。一つは、国道275号線を当別町方面へ進み、新石狩大橋を渡り、江別市篠津から道道に右折するルート。もう一つは、札幌市内から行啓米里通、厚別通、江別市に入って三番通と辿り、石狩大橋を渡るというコース。どちらを通っても、東札幌の自宅からの距離に大差はなく、およそ40キロ、所要時間も概ね50分ないし1時間程度である。市街地、信号が少ない分、前者の方が概ね所用時間は短いようではあるが、決定的な差はなく、その日の気分で走り分けている感じである。
 まず、この小一時間のドライブというのが、大きなポイントである。札幌市内にも温泉の銭湯は幾つかあるが、風呂に入りに行くのに、市街地を中途半端に走るというのもゾッとしない。かといって、日帰りで入りに行く温泉でも、片道一時間以上を要するとなると、帰りがさすがにかったるい。そこへ来ると、この小一時間、冬の悪天候時でも、一時間を大きく越えることはないという距離は手頃であり、かつ、ドライビングマインドも取り敢えず満足いく、というものである。片道約40キロということであれば、同程度、或いはもっと近い距離の温泉も存在するが、札幌が拠点となるのだから、道路事情が大きくものをいう。新篠津村より距離的に近くとも、渋滞がちの道路を走らねばならないところであれば、所要時間は一時間を越えるということもしばしばだったりする。その点、新篠津村へ至る二つのルートは、往復とも、大きく渋滞する個所はほとんどない。強いて言えば、275号線ルートは曜日、時間帯で込み合う個所がなくはないが、その時は予め、厚別通ルートを辿ればいいのであるから、気苦労はない。所要時間がほぼ確実に計算できるというのも、魅力の一つと言えよう。
 さて、今日は札幌から、行啓米里通を経て厚別通へと進もう。江別市へ入ると三番通と名が変わるが、しばらくは市街地のドライブである。しかし、それも石狩大橋までで、石狩川を渡ると、一面の田園地帯となる。やがて江別市から新篠津村へと入り、「しんしのつ温泉」の案内板に従い進むと、やがて石狩川の堤防が近付き、左手には石狩川の河道改修で誕生した河跡湖、しのつ湖が広がる。冬には、穴釣りのテントが立ち並び、賑わいを見せる。テントのみならず、地元の人のトタン小屋まで建てられていたりもする。
 さらに堤防下を進むと、やがて左手に「しんしのつ温泉」が現れる。右手の石狩川の河原はゴルフ場で、温泉の建物の一階は、ゴルフ場のクラブハウスになっている。いや、この表現は正確ではないかもしれない。ゴルフ場のクラブハウス二階が温泉になっている、というべきか。何しろ、外見的には、いかにもクラブハウス、といった風情なのだから。この一階部分には、ゴルフ客用の浴室(もちろん温泉で、ゴルフのプレー客は無料)があるが、かなりの数のゴルフ客は、料金を払って二階の温泉を利用している。露天風呂もある広い風呂の方がよいという人が、それだけ多いということであろう。
 二階への階段は二股に別れ、右へ上がると温泉フロント、左はレストランへと続いている。入浴料は大人四百円、十枚綴り回数券は三千六百円で、一回あたり三百六十円となる。現在、札幌の銭湯が三百六十円だから、回数券を買えば銭湯と同じ料金ということになる。
 フロント前はカーペット敷きの広間となっており、休憩所として供されている。奥には和室の休憩室二室もあり、こちらは禁煙となっているので、私は専らこちらを利用している。しかし、週末ともなれば、これら休憩室も足の踏み場もないくらいに混雑する。日曜、祝日は、一階のゴルフ客貸し切り用の和室が空いて入れば、そちらも温泉客に開放されるが、それとて日中は大混雑である。やはり、のんびりと過ごすには、平日が狙い目である。
 暖簾をくぐり浴室へ進むと、毎度のことながら、脱衣場が広いのにはほっとさせられる。脱衣場の狭い浴場で、濡れた肌同士がぶつかり合うのは実にばつが悪いが、二十畳以上はあろうここの脱衣場なら、よほど混雑しない限り、その心配はない。壁際には脱衣籠を置く棚のほか、有料のコインロッカーも置かれている。これは、ゴルフ客でボストンバッグ等を持っている客への配慮であろう。このほか、フロント前には無料貴重品ロッカーもあり、セカンドバッグ程度のものならこちらに入れることができる。
 二重になった自動ドアから浴室へ入ると、すぐ左手がサウナで、その奥に洗い場が並んでいる。石鹸は置かれているが、シャンプーはない。これは、入浴料四百円の公営温泉としては標準的で、五百円ないし六百円のところはシャンプーもある、というのが一般的傾向である。お湯は茶褐色のナトリウムー塩化物泉、旧泉名弱食塩泉で、源泉30℃のものを浴用加熱している。口に含むとややしょっぱく、温浴効果抜群の湯である。ナトリウム系の匂いが浴室には立ち込め、吸引浴効果も期待できそうである。
 サウナの向かいには水風呂があり、そのとなりから奥に向かい、ジェットバス、ジャグジー、大(主)浴槽、打たせ湯と並び、突き当たりのテラス部分が露天風呂となっている。それぞれに温度差が設けられており、ジェット37℃、ジャグジー43℃、大浴槽41℃、露天風呂42℃という具合である。露天風呂は前述のとおりテラス部分にあり、しのつ湖の一部と、背後の田園風景を望むことができる。絶景というわけではないが、何となく心和む風景である。広さもなかなかのもので、一度に十人程度は入れそうである。北海道の公営日帰り温泉で、最初に露天風呂を設けたのはここで、以後、公営温泉でも露天風呂は標準的なものとなった。公営温泉のレベルアップに貢献したという点は、おおいに評価されよう。ただ、その浴槽の広さゆえか、湯温は下がりがちで、冬場は、それを補うために熱湯を加えたりしているのはいただけない。せっかくの温泉が“お湯割り”になってしまっては、効能も半減してしまいそうである。内風呂の大浴槽はそういうことはなく、源泉のままの湯につかることができるのだが。
 利用客の大半は、村内、或いは近隣市町村の農家の人々である。公営温泉の経営成功のカギは、大都市圏に近いことと、農業人口が多いことであるという。大都市圏からは、週末の集客が期待できるし、農業人口は、それまで農閑期に遠方の温泉へ湯治に行っていた層を吸収できるからだという。なるほど、ここに限らず、石狩平野周辺の公営温泉は、ほぼ例外なくこの条件に当てはまる。
 この温泉の魅力は、泉質もさることながら、実に整理整頓と清掃が行き届いていることであろう。スタッフは、村内から働きに来ていると思しきおばちゃんが大半で、さらに村内の養護施設からの実習生も来ているのだが、ともかく暇を見てはテーブルを拭き、ゴミ箱のゴミを片付け、脱衣場の床をロールクリーナーできれいにしている。サウナのタオルも、そろそろ濡れてきたかな、と思うくらいになると、心憎いばかりのタイミングで換えにくる。そういう細やかな気遣いが至るところで感じられるので、実に気分よく過ごせるのである。
 どんなに金を掛け、立派な施設をつくっても、最後にものをいうのはそこで働く人々の“ハート”ではなかろうか。それをさり気なく感じさせてくれるからこそ、数ある公営温泉の中から、私も惹かれたのだと思う。 ここのオープンは平成2年で、そろそろ開業から十年になろうとしている。しかし、手入れが行き届いているので、古さはまったくといって感じられない。これからも、快適な空間を提供し続けてくれようことは、疑いの余地のないところである。

 付属のレストラン「ななかまど」についても触れておきたい。ここの特色は、器と盛り付けにこだわっていることで、そのお洒落さには舌を巻くことしきりである。和、洋、中華、何を頼んでも大きく外れることはなく、料金も定食類で千円前後と手ごろである。個人的お薦めは、ジョッキ二杯とおつまみ二品(十数種類から選択できる)で千六百円のほろ酔いセットで、おつまみはザンギ、スモークサーモン、やっこ、枝豆、餃子、春巻きなどが選べる。また、夏季は、ゴルフ場脇に、テントハウスの焼き肉コーナー「ティーショット」も開設される。

 さて、この「しんしのつ温泉 ニューしのつクラブアイリス」、宿泊施設はなく、宿泊は同じ敷地内にある旅館水明荘か、研修施設のしのつ湖畔の家を利用するしかなかった。しかし、一昨年6月に、少し離れたしのつ湖畔に、村営の宿泊施設「しんしのつ温泉 たっぷの湯」がオープンした。こちらでも日帰り入浴が楽しめるが、料金は六百円とやや高い。浴室の施設内容には大きな差はないが、宿泊施設主体だけに、浴室は「…アイリス」と比べ、やや小振りである。しのつ湖に面した露天風呂はなかなか雰囲気がよく、料金が高いゆえ?ボディソープとシャンプーが備えられている。特筆すべきは、水風呂の代わりに、温泉水を冷やした冷泉浴槽がある点で、これは、長く入っていると、低温であるにもかかわらず次第に身体が温まってくるという代物である。それだけ泉質に恵まれているということでもあり、「…アイリス」の水風呂もこれにならないか…という期待を寄せてはいるのだが、いまのところそうなる気配はなく、残念である。
(次回は、網走周辺の温泉をめぐる予定です)


 
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 連載・グルメ情報

 今が旬の魚、ホッケ

 初夏が旬の魚貝類といえば、一番に思い浮かぶのはウニ、そしてイカといったところか。いやいや、そればかりじゃない。初夏から夏本番にかけては、ホッケが一番おいしくなる季節。
 決して高級魚ではなく、市場でも、生で、或いは開きで、山で売られているホッケ。しかし、大衆魚でありながら、その味わいは捨てたものではない。開きは、火を通し過ぎず、焼きたてにレモンを搾って頂くのか一番。生は、煮付けにしてよし、フライにするもよし。選ぶポイントとしては、「釣り」の文字があるものが最上。網で獲ったものは、定置網に入って日が経っていると、身に傷があることが多く、やはり味は落ちてしまう。
 そんなホッケを、そこならではの料理法で食べさせてくれる店を、二軒紹介しよう。

 一軒目は、最北端の浮き島、礼文島。この島の表玄関にあたる香深港、その旧港地区にある炉端焼きの店「ちどり」。礼文といえばウニ丼が有名で、ここでも、当然それを味わうことができる。が、私の一押しは、やはり「ホッケのちゃんちゃん焼き」。
 頭を取り、背開きにした生ホッケを、炭火の上に乗せた網で焼く。味付けは、特製の味噌とネギのみじん切りだけ。本来、ちゃんちゃん焼きとは漁師の船上料理で、調理を担当する新米漁師を“ちゃんちゃん”と呼んでいたことに由来する。通常は鮭を使うが、島の特産であるホッケを敢て使うのがちどり流。したたり落ちた脂の焼ける香ばしい匂いが広がり、身が箸でほぐせるようになったら食べごろ。味噌とネギを和え、あつあつをほおばる。ビールのつまみによし、ご飯のおかずによしで、箸の止まる間もなく一尾を食べ尽くし、
 「ビールとちゃんちゃん、おかわり」
となってしまうのが私のパターン。マスターは口数は少ない人だが、うまいものを出すということにはこだわりを持っている人で、当然ホッケの鮮度も抜群である。
 このちどりのちゃんちゃんにヒントを得て、漁協の売店でも、冷凍したホッケの「ちゃんこ焼き」なる商品を販売しているが、炭火での網焼きでこその味であり、ホットプレートやフライパンでは、脂が落ちず、くどい味になってしまいそうである。やはりこの味は、島に渡って、現地でこそ、のものであろう。

 二軒目は、小樽は祝津、おたる水族館近くの「民宿青塚食堂」。道路を挟んで海岸と対峙する建物は、近年建て替えられた新しいもの。宿泊は一泊二食付きで七千円からで、前浜で上がった新鮮な魚貝類をふんだんに使った料理が自慢。食堂のみの営業もしており、お薦めは鮮度が勝負の「ほっけのあらい」。
 ホッケは足の早い魚で、生食できるのは上がりたてのものか、いけすものに限定される。ここのものは当然前者で、ポン酢で味わうあらいは、浜ならではの味わいである。焼くと気になる脂も、生ならほとんど気にならず、ことのほかあっさりしている。それでいて、タラやカレイほど淡泊ではなく、味の主張はそれなりにある。全道でもこれが食べられるところは少なく、小樽に行った折りには是非とも立ち寄りたい一軒である。浜ことば丸出しの、元気のいいおかみさんが迎えてくれる店である。

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 連載・旅人コラム

 東京〜札幌間の移動費用を考える

 東京〜札幌間の交通機関別旅客シュアをご存じだろうか。実に90%以上が航空機で、残りの一割以下がJRやその他交通機関、となっている。所要時間を考えれば当然の話で、羽田〜千歳空港間が僅か1時間半なのに対し、JRでは、東北新幹線から在来線特急に乗り継いだ最速のパターンでさえ、10時間以上を要してしまう。上野と札幌を乗り換えなしで結ぶ寝台特急“北斗星”も16時間を要し、これでは、忙しい現代人で、敢てJRを利用する人間はごく少数であろう。
 その、東京〜札幌間の航空運賃は、大手三社の通常期運賃で片道二万四千七百円。しかし、昨年12月に、エア・ドゥこと北海道国際航空(以下エア・ドゥ)が通年一万六千円という格安運賃で参入して以来、大手も“特売り”や“特割”と称した割引便を早朝やエア・ドゥ便の前後に設定、それまで“高値安定”だった航空運賃も、様変わりを見せはじめた。殊にこの6月からは、これまで一万七千円に設定していた特売り、特割運賃を、エア・ドゥと同じ一万六千円とするなど、大手のエア・ドゥ“いじめ”は熾烈を極めてきている。しかし、新規参入に可能なその運賃が、なぜこれまで大手で実現できなかったのか、という不満の声は道内では強い。
 エア・ドゥは、当面値上げ、値下げともに考えていないといい、「より一層の、道民の方々のご支援を期待する以外にない」とのコメントを発表しているが、高値安定だった東京〜札幌間の航空運賃にエア・ドゥが風穴をあけたのは間違いのないところで、飛行機をりようすることのほとんどない筆者ではあるが、もしその機会の折りには、当然エア・ドゥを利用したいと思う。 さて、エア・ドゥならびに大手航空三社の特売り、特割で東京〜札幌間が片道一万六千円なら、他の交通機関はどうだろうか。JR東日本では、北海道内のJR線に乗り放題で、往復に特急“北斗星”のB寝台(個室除く)または東北新幹線と在来線特急の指定席を利用できる「ぐるり北海道フリーきっぷ」を、この6月までの限定であるが、発売している。値段は、東京都区内発で三万三千五百円、5日間有効。北斗星で上野〜札幌間を往復する正規運賃料金額が四万九千五百円だから、かなり割り得である。一方のJR北海道からは、やはり北斗星のB寝台か、東北新幹線と在来線特急指定席が利用できる「東京往復切符」があり、こちらもこの6月までの限定だが、札幌〜東京、舞浜、横浜との往復で二万八千五百四十円で、6日間有効。目的地まででの途中下車はできないが、エア・ドゥの往復運賃より安く舞浜、横浜まで足を伸ばせるのだから、これも割り得感は大きい。但し、敢て難を言えば、鉄道は点と点を結ぶだけの航空機と違い、こまめに停車することにより“面”での集客ならびに下車の対応が可能という点にメリットがあるのだが、この切符は特定の駅間のみでの設定であり、その恩恵に授かれぬ地区に居住の人々の不満は大きかろう。
 他に考えられるのは、海上交通、すなわちフェリーである。北海道をベースと考え、苫小牧と東京を結ぶブルーハイウェイラインの二等運賃は片道一万八百円。これに、札幌からの高速バス運賃千二百七十円をプラスしても、都合一万二千七十円。或いは、小樽から新潟を結ぶ新日本海フェリーなら二等五千二百五十円で、札幌〜南小樽間のJR運賃が六百二十円。そして、新潟からは池袋行の高速バスを利用すれば五千二百五十円で、計一万一千百二十円。また、東日本フェリーでは、航路開設15周年を記念し、この4月より来年3月まで、室蘭〜大洗航路で、最大50%に及ぶ大幅な運賃割引を実施しており、通常九千七百五十円の二等運賃が四千九百円となっている。これに、札幌から室蘭までの高速バス代二千円、大洗港から水戸駅前へのバス代六百円、水戸からはJRの普通列車利用で、東京山手線内までが二千二百十円、計九千七百十円で、一万円を切る。いずれも、エア・ドゥより安いが、所要時間は、苫小牧〜東京間がおよそ30時間、小樽〜新潟間が19時間、さらに東京までは高速バスで5時間、室蘭〜大洗間も19時間、前後のアプローチにおよそ5時間は必要とみられるなど、膨大な時間を要し、時間に追われる人の旅にはどう考えても不向きである。さらに、それに伴う食費等の経費もかさむわけで、それを考慮すれば、エア・ドゥより安い、とばかり喜んでもいられないのも事実である。しかし、船旅の魅力は、他の交通機関とは比較にならない空間的ゆとり、そして、あくせくとした日常から、一時的にではあれ開放され、ゆったりとした時間を過ごせるという点にあろう。現代人には、時にはそういう時間を忘れるような旅も、必要なのではないだろうか。
 これ以外に、“安さ”を追及できないものであろうか。季節を限定すれば、可能である。JR旅客各社が春、夏、冬に発売している、普通列車乗り放題の「青春18きっぷ」を利用すれば、延べ5日間有効で一万一千五百円の切符一冊で、札幌〜東京間の往復が可能である。
 もっとも有効なタイムスケジュールとしては、札幌からはまず23時30分発の函館行快速“ミッドナイト”に乗り込む。「青春18きっぷ」では、一日分の効力は、乗車した列車が午前0時を回って最初に停車する駅まで、となっているので、“ミッドナイト”乗車日の一日目分が、0時を回って最初に停車の終点、函館まで効力を持つ。函館から先は二日目となり、快速“海峡”から奥羽、羽越線を乗り継ぎ、同日23時31分に村上を出る新宿行快速“ムーンライトえちご”に乗り込む。“ムーンライトえちご”は新潟から信越線、上越線、高崎線と辿り新宿に向かう途中、加茂で0時を回って停車するので、その先からは三日目となり、早朝5時10分、新宿へ到着する。札幌からは29時間余りの旅程だが、函館から青森県下にかけては乗り継ぎにゆとりがあり、途中下車をして道草を食うことも可能なので、街を歩いたり、温泉に入ったりと、工夫次第ではそれなりに楽しめる。
 東京からの帰路は、往路の二夜行快速を逆に辿ることになるが、新宿発23時08分の“ムーンライトえちご”村上行は、高崎が0時を過ぎて最初の停車駅となる。東京山手線内から高崎までの普通旅客運賃は千八百九十円で、“青春18”一日分単価の二千三百円を下回る。この日に、この区間以外にも乗っているのなら問題はないが、もし“ムーンライトえちご”にしか乗車しないのなら、高崎までは普通乗車券を購入し、“青春18”一日分を節約する手法もある。その判断は、前後の旅程、或いは“青春18”の利用期間との絡みで、個々に判断する以外にないが。
 高崎からは、青春18一日分の“ウルトラC”、とでも呼びたくなる芸当が使える。夜が明けての“ムーンライトえちご”の終着村上から羽越、奥羽、海峡線を乗り継ぎ、函館には同日20時39分に到着する。そして、23時30分発の快速“ミッドナイト”に乗り込めば、翌日に日付が変わって最初の停車駅、6時15分着の新札幌まで、高崎からの一日分で行かれるのである。もし札幌まで行くのであれば、新札幌〜札幌間の乗り越し運賃を支払えばいい。 結果、“青春18”一冊、延べ5日間有効をフルに使うか、或いは一日分を残すが、他の日に充当するかして、札幌〜東京間、一万一千五百円プラス、指定席料金千六百二十円(閑散期なら千二百二十円)での往復は成立するのである。もちろんこのパターンも、フェリー利用同様、様々な経費はこれに加わりはするが、旅心の充実度では、もっとも高いといえるのではなかろうか。事実筆者は、このパターンを往復、或いはどちらかの片道のみ、という時もあったが、過去に幾度となく実行している。時間に追われている人からは、何と贅沢な、と羨望され、或いは罵声を浴びせられそうな気もするが…

 さて、これよりも安い費用での旅はできないものか。もはや考えられるのは、徒歩、自転車、ヒッチハイクの三通りだけではなかろうか。もちろんこれらを実行するとすれば、もはや費用云々の次元を超越していよう。そしていずれも、トラックの荷台にでももぐりこめれば話は別だが、津軽海峡を渡るのに、最低でも函館〜青森か大間のフェリー運賃はかかる。また、過去には青函トンネルを歩いて抜けようと試みた人間も複数いたが、例外なく発見され、未遂に終わっている。出入口と定点(海底駅)には監視カメラが設置され、昼夜の別なく旅客、貨物列車が行き交うトンネルを歩こうとすれば、間違いなく発見され、鉄道警察の厄介になる。くれぐれも馬鹿なことは考えぬように。
 筆者は、この三つのうち、首都圏と札幌間のヒッチハイクは数度実行している。最短所要時間はおよそ34時間だか、たまたま長距離のトラックに乗せてもらえた結果であり、平均所用時間は丸二日ないし三日程度と考えるのが無難である。もちろん、十代後半から二十代前半の頃の話で、さすがに三十を越えた今、再度チャレンジすることは難しそうである。

 さて、筆者は、今しばらくは北海道から出る予定はないが、もしかすると夏の終わり頃、本州方面へ旅に出るかもしれない。もしそうなった場合でも、航空機利用の可能性はゼロと断言してよく、かつてはさんざん利用した北斗星号も、最近の貧乏旅とは無縁の存在となってしまった。この7月には、オール個室の新型寝台車“カシオペア”もデビューするが、全室が二人用の個室とあっては、孤独な旅人とはますます縁がなさそうである。やはりフェリー利用か、青春18か、或いはその組み合わせ、といったところに落ち着きそうである。最近自転車に乗り出したこともあり、もしかすると、それに自転車も絡んでくる可能性もあり、である。果たして、どんな旅になるのやら…

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 さて、「札幌発 旅人通信 創刊号」、いかがだったでしょうか。ご意見や、取り上げてほしい企画等ありましたら、ぜひお寄せください。尚、発行間隔ですが、月刊とするのはややしんどいというのが本音で、かといって季刊では間が空き過ぎるかな、といった感じで、当面は、二月ないし三月に一度出せれば、という感じでいきたいと思っています。
 それでは、今号はこのへんで。ごきげんよう!

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