MAGIC SAM の CD
*注 ここに紹介するCDは僕の保有するものであり、決してすべてを網羅しているわけではありません。
[01] OUT OF BAD LUCK (P-VINE PCD-2123)
- All Your Love
- Love Me With A Feeling
- Everything Gonna Be Alright
- Look Watcha Done
- All Night Long
- All My Whole Life
- Magic Rocker
- Love Me This Way
- Easy Baby
- Easy Baby -alt.
- Twenty One Days In Jail
- Twenty One Days In Jail -alt.
- Roll Your Money Maker
- Call Me If You Need Me
- Mr. Charlie
- You Don't Have To Work
- My Love Is Your Love
- Square Dance Rock -pt. 1
- Square Dance Rock -pt. 2
- Every Night About This Time
- Do The Camel Walk
- Blue Light Boogie
- Out Of Bad Luck
- She Belongs To Me
- Respect Me Baby
- A Hard Road
COBRA・CHIEF・CRASH などの、サム初期の録音を集めたもの。現在は廃盤で、同名の PAULA(PCD02) がほぼ同内容だが、この P-VINE 盤の方にしか収録されていない曲があるので、中古盤を探す価値はある。ジャケットのサムも若々しい。(1)〜(4)が1957年の初録音(ただし、後に判明したことだが、(1),(2)は別テイク)で、デビュー曲の(1)が相当当たったと見えて、すぐに同系統の(3)をリリースしている。ウィリー・ディクソンが仕切り、ベースも弾いているが、同時期のオーティス・ラッシュの録音に比べると、腰高の印象が強い。これはハープ・サックスが入っていないギターバンド*1 のためと、サムのヴォーカルがまだこなれておらず、ヴィブラートが殆どかかっていないためであろう。でも(2)のロッキン・ナンバー(鈴木啓志氏はサン・サウンドと表現している)*2のギターの切れ味は迫力十分だし、(4)(ギター・ショーティの「アーマ・リー」を思い出させるイントロ)のギターは後のデルマーク時代に通じる。この時点で、荒削りながら、サムのスタイルはほぼ確立していたと言えるのではないか。むしろサムはここから幅を広げていったように思える。
(5),(6),(9)〜(12)は翌58年の COBRA 録音で、ピアノにハロルド・バラージェの名前が見える(けっこう派手に弾いている)。(5),(9),(10)は「オール・ユア・ラヴ」パターンの曲だが、注目すべきは(5)のBメロのコーラス、こうして聴くとほんとにロンリー・アヴェニューなんだが、このパターンは、ジュニア・ウェルズの「リトル・バイ・リトル」にも出てくるよね。この辺の処理は間違いなくディクソンの仕事と思うのだが、いかがなものか。(9),(10)ではこの部分をサムひとりで歌っている。ブラック・ミュージックレビューNo.81の高橋英明氏の記事によると、(9)はアン・コール(マディ御大の「モジョ・ワーキン」の元歌を唄ってた姉御)の「イージー・イージー・ベイビー」が元歌だそうだ(小樽の TOYOTA さんに教えていただいた)が、江戸川スリムさんのご厚意により音を聴いた限りでは、テーマの歌詞以外には、僕には共通点が分からなかった。なお、後に判明したところによると、このアルバムに収録されているヴァージョンはいずれも別テイクとのこと。また、(6)は(4)と同じような曲で、サムは自作曲のパターンが少ないという限界を感じさせる。しかし(11)ではカントリー・フレーヴァーを感じさせるギター・プレイをもつ、御機嫌なロッキン・ナンバーだ。子供の頃にヒルビリーに親しんでいた影響だろうか。
(7),(8)は同時期の未発表曲。でもトレモロを目一杯に効かせた7のインストはかっこいい!また(13),(14)は叔父でサムのマネージャー的存在であったシェイキー・ジェイク名義の作品(ARTISTIC原盤)。(13)はシェイク・ユア・マネー・メイカーと同じテーマの曲で、サムの切れ味のいいギターが印象的。また、(14)はサムのギターが満喫できる名曲だが、小出斉氏も指摘*3しているように、ジェイクはサムのヴォーカルにかなり影響を与えていることを思わせる。僕は20年前、「シカゴ・ブルースの25年」という P-VINE のボックスLPで初めて聴いたとき、「いい曲だなぁ」と思った覚えがある。
(15)〜(22)は1960年、刑務所から戻ってからの CHIEF 録音((21)はクレジットなし)。まず(15)のダンスナンバーだが、メンフィス・スリムの「ステッピン・アウト」のテーマから、一転して「ボニー・モロニー」のリフに乗せたのどかな歌。曲調やコーラスはジミー・マクラクリン風だ。(16),(17)の「オール・ユア・ラヴ」調の曲も、ポップなコーラスが付く。でも、サムのヴォーカルが格段に上手くなっている!ヴィブラートのかけ方はほぼ完成している。驚くべきは(18),(19)のダンス・インストで、こりゃカントリーだよ!いや、日本のエレキバンド(加山雄三あたり)がやってると言っても騙せるかもしれない.ちらっとハワイアン風のスライドが聞こえる(だれが弾いているのだろう)。フレディ・キングもこの手のインストを流行らせていた時代ならではなのだろうか。(21)は鐘の音ものどかなハイダウェイ風インスト。けっこうアール・フッカーばりにグリグリ弾いている。(20),(22)ではファッツ・ドミノ、ルイ・ジョーダンといった大スターのヒット曲を取り上げているが、(22)はあまりサムに向いた曲とは言えない。しかし(20)はサムの良さの出た佳曲だと思う。オリジナルのファッツ・ドミノのヴァージョンがそこはかとないのどかさを感じさせるのに対し、サムはそのヴォーカルの魅力を最大限に引き出し、憂いのある作品に仕上げている。
そして(23),(24)が1966年の CRASH 録音。(23)はサムのワンパターンの中でも最高の出来だと思う。声の荒れ方がかえって悲愴感を出している。また、(24)では後に好んで取り上げる8ビートのナンバーだが、これを「Magic Sam Live」のLP盤の初版付録シングルで聴いたときはけっこうインパクトあったなぁ。好き嫌いはあると思うが、僕はこの曲、凄く好きだ。ラストの(25),(26)は再びシェイキー・ジェイクの作品(THE BLUES 原盤)。ハープはルイス・マイヤーが吹いている。こうして聴くと、サムのヴォーカルとの共通点を強く感じる。サムのギターは比較的控えめで、ルイスのひしゃげたアンプリファイド・ハープが全開である。
こうして改めて聴き直すと、けっこういろんなことに気づく。日頃車の中でだらっと聴いている(それはそれでよいのだが)時に聴き過ごしていたことがけっこうあるものだ。あまり健康的な聴き方じゃないとは思うが、たまにはこういう時間を過ごすのも悪くない。
*1 リトル・ブラザー・モントゴメリーのピアノがクレジットされているが、
音は(3)のみで確認でき、クレジットのないセカンド・ギターが入っているように聞こえる。
特に(4)、もしもこれがサムひとりの仕業だとしたら、化け物だ。
低音2弦でコンスタント・ ベースを入れながら、高音2弦でダブル・ストップのチョーキング、
一体左手はどうなってるんだ!
*2 ブルース&ソウル・レコーズ 4号 p.68
*3 同上 p.63、レコード・コレクターズ 1999.1 p.88
[02] THE LATE GREAT MAGIC SAM (P-VINE PCD-2194)
- High Heel Sneakers
- All Your Love
- Trying To Make It
- Call Me If You Need Me
- Look Out Sam
- Torturing My Soul
- Sometimes
- Back Door Friend
- Feeling Good
- All Your Fault
- Looking Good
- Easy Baby
[01]の CHIEF 録音と CRASH 録音の間には、5年以上の空白があり、その間のリリースはこのCDに収録された(1)と(2)だけだったそうだ。このCDはその透き間を埋める1963〜4年の録音と、死の直前のヨーロッパ・ツアーのライヴを集めたもの。(1)は言うまでもなくトミー・タッカーのヒットで、けっこうオリジナルに忠実。(2)はデビュー曲の再録。ただし歌詞が「All of your love」となっている。(3)と(5)はインストで、(3)はフレディ・キングやオーティス・ラッシュに通じるムードを持つインスト。でもこのイントロのリフ、どっかで聴いたことがあると思ったら、アール・キングの「カモン」(別名「レット・ザ・グッド・タイムズ・ロール」またの名を「ダーリン・ハネー・チャイルド」)の演奏部分と同じではないか。(5)は「ルッキン・グッド」に通じるインスト。(4)では[01]の叔父の曲を取り上げている(叔父さんのヴァージョンの方がずっと良い)。(6)はオリジナルのスローで、「ティン・パン・アレイ」に通じるムードの曲。しかしこの一連の録音のバックで活躍するオルガン、時代を感じるねぇ。(7)はB.B.調のスロー、(9)ではシカゴブルースの王道、ジミー・ロジャーズの曲を取り上げている。(9)はジュニア・パーカーの「フィール・ソー・グッド」。(9)はサム得意のパターンの本家、ローウェル・フルソンの曲を一部改作した物。いずれもクレジットでは自作となっているが・・・。以上の10曲はウィリー・ディクソンのプロデュースによるそうだが、いまひとつ覇気を感じさせない演奏で、もの足りない。
ラスト2曲は1969年10月3日、つまり死のわずか2か月前、ロンドンはロイヤル・アルバート・ホールで行われたアメリカン・フォーク・ブルース・フェスティヴァルでのライヴ。メンバーは当時組んでいたマック・トンプソンのベースと、これは初耳のロバート・セント・ジュリエン(この日のフェスティヴァルでずっと叩いているようだ)のトリオで、(9)はややゆったり目だがしっかり唄っている。(10)はアン・アーバーの熱気はなく、ちょっとドラムがバタバタした感じもあるが、音質は[06]に比べると良好でサム自身はなかなかの好演、でもいまひとつ元気がない。もう少し長くやってもよかったのではと思える内容。ひょっとしてサム、疲れてたのかなぁ。ジャケット写真も晩年のものらしい。ちょっと元気がないように見えるのは気のせいかしら。
[03] WEST SIDE SOUL (DELMARK/P-VINE PCD-1801)
- That's All I Need
- I Need You So Bad
- I Feel So Good (I Wanna Boogie)
- All Of Your Love
- I Don't Want No Woman
- Sweet Home Chicago
- I Found A New Love
- Every Night And Every Day
- Lookin' Good
- My Love Will Never Die
- Mama, Mama-Talk To Your Daughter
- I Don't Want No Woman -alt.
サムの代表作。ジャケットも強烈な色使い(原盤はもっとすごかったようだ)。全体に少しオーヴァー気味の録音で、ヴォーカルがザラッとした感触になっているが、それがかえってよい結果を生んでいると思う。(1)はミディアムのソウル・ナンバー。「ボビー・ブランド風」との解説が多いが、僕はこれってシカゴ・ソウル(インプレッションズとか)に聞こえるんだが。ソウルはあまり強くないので、皆さんのご意見を伺いたい。「ウエスト・サイド・ソウル」をこの曲で始めたのって、けっこう意味があるのでは?(2)はB.B.キングの曲だが、サム最高のスロー・ブルースだと思う。このギター、随分コピーしたっけ。最後の"Oh, Baby"とメーター振り切りながら声を張り上げる部分、いつ聴いてもいいなぁ。(3)はジュニア・パーカーのサザン・ブギ・ナンバー。こういうギター、上手いなぁ。スピード感が心地よいし、声もよくマッチしていると思う。続く(4)はデビュー曲の再録で、タイトルを変えたのは、盟友オーティス・ラッシュの曲との混同(ライナーで間違えてた解説者もいたっけ)を避けるためではと思う。[01]のものと聴き比べると、歌の上達が一聴瞭然!やはりサムを代表する曲だ。(5)はボビー・ブランドの曲で、ヴォーカルはオリジナルと比べるとやはり深みは欠けるが、瑞々しく別の魅力を感じる。ギターはクラーレンス・ホリモンのものをほぼフルコピーしているが、かっこいい!サムのシャープなスタイルによく合っている。
LPではB面の頭に当たる、サムと言えばこの曲といわれる(6)、ロバート・ジョンソンの作と言われるが、歌詞とベースの曲調はおそらくジュニア・パーカーのヴァージョンだろう。自分と似たパーカーのハイトーンなヴォーカルをサムは気に入っていたのだろう、歌い回しの随所にそれがあらわれているし、バッキング・ギターも共通部分を感じる。しかし一方、特にギタープレイはシカゴ・ブルースの王道というフレーズも多々登場する。ロバート・ロックウッドなどで聴かれるダブル・ストップやサブドミ部でのフレーズは、正に「スウィート・ホーム・シカゴ」である。いったいこの曲、いくつのブルースバンドにコピーされたのだろう。ちなみに、「ブルース・ギター・ブック」(シンコー・ミュージック 1998)に、フルコピーの譜面が出ているので、興味のある方はどうぞ。
リトル・ミルトンがセントルイス時代に吹き込んだ(7)は、オリジナルに比べて、ギターを全面に出した演奏。でもこうして聴き直すと、けっこうミルトンのギターにも影響を受けてるようだ。ヴォーカルは余裕のあるミルトンに対し、情感たっぷりのサム、名唱だ。ジミー・マクラクリンの(8)も、R&B色の強いオリジナルよりゆったりした、ギター・ブルース・ナンバーに仕上げている。そして(9)のインスト、これは凄いと言うほかはない。ロッキン・ブギなんだが、ソロで弾きまくるところは盛り上がる。サムのビート感はただ者ではないことを示している。しかしアン・アーバーのライヴを聴くと、こんなの序の口ってことが分かる。ロック全盛の時代にあって、なぜサムが高く評価されたかがよく分かる曲だ。これに対し、(10)は「時間切れ」とでも言うべきか。サムはオーティス・ラッシュの曲も取り上げているるのだが、つい比較してしまうと、ヴォーカルの情感などが、オリジナルには到底及ばないと思う。特にこの曲は、途中でフレットは間違うは、ベースもコードを間違えるはで、なぜこれを収録したのかは疑問である。想像だが、スタディオを十分にとる予算のない中、時間ぎりぎりでやっつけちゃったと言ったところか。J.B.ルノアのロッキン・ナンバー(11)は、オリジナルよりさらにアップテンポで、たたみかけるような演奏。声もよく合っているし、かっこいい。しかしルノアのゆれる感じのオリジナル・ヴァージョンの方が僕は好きだ。(12)はおまけ。本ヴァージョンよりしょぼい。
こうして聴くと、オリジナルの歌物ブルースはたった1曲でしかも再録。ソングライターとしてはやはり寡作と言うほかはない。しかし他人の曲の消化のし具合を聴き、ギタープレイに注目すると、パフォーマーとしてのサムの魅力がいっぱい詰まったアルバムだと言える。僕はここで取り上げられた曲のオリジナル・ヴァージョンを必死で集めた。そうさせたくなる作品だ。
なお、このセッションでピアノを弾いているストックホルム・スリムなる人物、スウェーデン人だとのことだ。詳細は江戸川スリムさんの「BlueSlim」の「About Swedish Blues」のコーナーに詳しい。
[04] BLACK MAGIC (DELMARK/P-VINE PCD-1956)
- I Just Want A Little Bit
- What Have I Done Wrong
- Easy, Baby
- You Belong To Me
- It's All Your Fault
- I Have The Same Old Blues
- You Don't Love Me, Baby
- San-Ho-Zay
- Stop! You're Hurting Me
- Keep Loving Me Baby
サムの死の直前に出された DELMARK の正規盤第二弾!ジャケットも名前の通り黒い。このアルバムの目玉はサックスのエディ・ショウが全面的にフューチャーされたことだ。まずサックス抜きでは語れない(1)、ロスコー・ゴードンの代表曲で、ジェームズ・コットンも好んで取り上げた曲だが、歌は悪くないんだが、演奏がいまひとつ乗り切れていない。また、迫力に欠けるんだが、その理由のひとつは録音にあると思う。[03]がややオーヴァー気味に録音されていることはすでに述べたが、こちらはクリーンに仕上げてある。また、ギターもより生音に近く、リヴァーブも少し深めなため、歪みに伴うドライヴ感のようなものが少々不足しているのかもしれない。続く(2)はエイト・ビートのオリジナルで(4)をマイナーにした様な感じの曲。セカンド・ギターのマイティ・ジョー・ヤング(「ハード・タイムス」は名作)が裏でけっこう弾きまくっている。(3)は COBRA 時代の再録で、これも聴き比べるとサムの円熟した様子がよく分かる。
(4)もエイトビートのオリジナルだが、リフはローウェル・フルソンの「トランプ」に通じる、吾妻光良氏曰く「はーだかのヨガヨガ」ですな(名言)。このパターンはけっこうシカゴで使われていたようで、後で触れる DELMARK のオムニバス「スウィート・ホーム・シカゴ」では、ルイス・マイヤーズが「トップ・オヴ・ザ・ハープ」なんて曲もこのパターンだ。さて、サムのこの曲、僕は大好きだ。歌詞の構造はブルース的で、しかも分かりやすいと言うか、単純明解。曲はこのアルバムの中では最もドライヴ感がある。サムはこういう曲が演りたかったんじゃなかろうか。フルソンの CHESS 時代の名曲の一部改作で、[02]にも収録されている5は、当然サムの十八番というかワンパターン。[03]-(4)と演奏はほぼ同じだ。
セントルイスの BOBBIN 時代のリトル・ミルトンはサムのお気に入りだったようで、[03]-(7)に続き、ここでも6を取り上げる。心地よいシャッフルで、ギターのリフはオリジナルのブラス・セクションを模している。次のウィリー・コブズのワン・アンド・オンリーである(7)は、リフを強調し、いかしたロッキン・ナンバーになった。一方フレディ・キングの(8)は、オリジナルにかなり忠実なインストだが、いまひとつ迫力や緊張感に欠ける。それに対し、アンドリュー・ブラウンの(9)は、オリジナル(名作)のムードを最大限引き継ごうとしている演奏で、好感が持てる。最後のオーティス・ラッシュ・ナンバー(10)は、オリジナルよりあっさりした歌と演奏。でも[03]-(10)よりはサムにあった曲だと思う。
[05] THE MAGIC SAM LEGACY (DELMARK/P-VINE PCD-5218)
- I Feel So Good
- Lookin' Good
- Walkin' By Myself
- Hoochie Coochie Man
- That Ain't It
- That's All I Need
- What Have I Done Wrong
- I Just Want A Little Bit
- Everything's Gonna Be All Right
- Keep On Doin' What You're Doin'
- Easy Baby
- Blues For Odie Payne
- Keep Lovin' Me Baby
1989年に出された DELMARK 未発表音源集。(1),(2)は サムの同レーベル発録音となる「Sweet Home Chicago」のセッションから。いずれの曲も[03]に再録されていて、そちらのヴァージョンの方が良いと思うが、特に2はエディ・ショウのサックスが入っており、少し趣が異なる。(3)〜(6)は[03]と同じセッションから。ジミー・ロジャーズのロッキン・ブルース(3)、同じジミーの(5)、ご存じマディ御大の4は、いずれもシカゴ・ブルース・クラシックとでも言うべき曲で、アウトテイクとは思えないほど出来はよい。特に(4)はさわやかな「絶倫男」ですな。シェイキー・ジェイクのハープがシカゴ・バンド・ブルースの伝統を感じさせる演奏に大きな役割を果たしている。でも、この3曲のうち1曲も[03]に収録されなかったとは![03]-(10)という「不完全」なものを入れているのに・・・。おそらく DELMARK としては、あえてシカゴ・ブルース王道のこれらの曲を外し、ギター・ブルース的色彩を強くして、統一感を出したかったのだろうが。
(7)〜(13)は[04]収録と同じ2回のセッションから。(12)はオリジナルのLPにはなく、CD化に際して追加された。(9)は COBRA 時代の再録で、これを[04]に入れていたらさすがにしつこい。(10)は「ザッツ・オール・ライト」風のオリジナル。典型的なシカゴ・ブルースといった感じで悪くはない。こういう曲のバックとなると、マイティ・ジョー・ヤングはさすがにつぼを心得ているなぁ〜と変な感心をしてしまった。(11)はスローのインストで、メンバーが順にソロを取っており、ウォーミング・アップに演ったような感じがする。リラックスしていて、酒場で飲みながら談笑するバックにこんな生演奏が聞こえたら、気分いいだろうな〜。
まあ、このCDは、[03][04]を聴いて、気に入ったら手を出す作品だろう。やはりアウトテイクはアウトテイクである。なお、ジャケットに写るエピフォンのギターはリヴィエラのようだ。
[06] MAGIC SAM LIVE (P-VINE PCD-1810/11)
DISK 1 AT THE ALEX CLUB
- Every Night About This Time
- I Don't Believe You'd Let Me Down
- Mole's Blues
- I Just Got To Know
- Tore Down
- You Were Wrong
- Backstroke
- Come On In This House
- Looking Good
- Riding High
DISK 2 AT THE ANN ARBOR BLUES FESTIVAL,AUGUST,1969
- San-Ho-Zay
- I Need You So Bad
- You Don't Love Me
- Strange Things Happening
- I Feel So Good (I Wanna Boogie)
- All Your Love
- Sweet Home Chicago
- I Got Papers On You, Baby
- Looking Good
- Looking Good -encore
今手元に、ブラック・ミュージック・レビューの、ザ・ブルースから氏名を変更した第1号(1981年6月号・通巻No.46)がある。表紙を飾るのはアン・アーバーのマジックサム!特集記事が2本(これらはいずれも[06]のブックレットに収録)、日暮氏の思い入れのこもったLP紹介・・・今思い出してもなつかしい、そして衝撃的なリリースだった。LPの初版には4曲入りシングル(現在はすべて[01]で聴ける)も付いていた。
さて、LPとはまったく異なるジャケット写真で再発されたこの2枚組は、ふたつのライヴ録音より構成されている。いずれもポータブル・レコーダーでの収録で、音質は劣悪!しかし、そんなことはどうでもいいと言わせるくらいの熱い音が納められている。凡百のブートと一緒にしてはいけないのだ。
まず DISK 1 。これはシカゴのアレックス・クラブでの演奏を、当時サムと交流のあった白人が録音したもので、1963年と4年の2回に分けて収録されたものだ。(1),(2),(4),(6),(9)が63年秋で、エディ・ショウのサックスにタイロン・カーターのエレピが加わっている。(1)は[01]に収録されていたファッツ・ドミノ・ナンバーで、ファンの女性がサムと一緒に歌い出して盛り上がる。う〜ん、現場で見たかった!(2)はボビー・ブランドの曲で、このころから[03]-(5)のスタイルが確立していたことが分かる。ジミー・マクラクリンの代表作とも言うべき(4)では、オリジナルではブラスで演奏されていたリフを、完全にサムのスタイルに消化してギターで弾いている。これも観客が歌っているようだ。途中でときおりたたみ込まれるギターはサム得意のフレーズ。アップの(6)はZ.Z.ヒルの初ヒットのカヴァーだが、これも切れ味のいいギターでサムらしい作品に仕上げている。途中フレディ・キングばりのギタープレイも飛び出し、かっこいい!得意のインスト(9)は、この時期からすでにレパートリーにしていたということで、シル・ジョンソンがサムに50年代にブギを教えたという話を裏づけるものになっている。
(3),(5),(7),(8),(10)は翌64年2月の録音(CDのクレジットでは7は63年とされているが、サックスが2本入っているところや、音質の感じから64年と判断した)で、エディ・ショウの他、A.C.リードという、強者サックス2本を従えたものだ。(3)はスローのインスト、サムのギタープレイが満喫できる。気持ちよさそうだなぁ。フレディ・キングの(5)なども年中演ってただろうと思わせる、こなれた演奏で、けっこうオリジナルに忠実だ。アルバート・コリンズのインスト(7)は、原曲よりアップテンポで、サックスのアンサンブルが心地よい。(8)はジュニア・ウェルズの曲で、これもけっこう原曲に従った演奏だ。60年代初期のヒット曲オンパレードといった選曲だ。ラスト(10)のインストは、「Sweet Home Chicago」で再録する。
全体に、大変リラックスした演奏で、レコーディングには恵まれていなかったものの、シカゴのブラック・コミュニティの中で、しっかり地に足をつけた活動をしていたことを裏づけるものだ。
DISK 2 はサムの死のわずか4か月前、アン・アーバー・ブルース・フェスティヴァルのライヴ。リミッタの効いたテレコによる録音であるが、サムのギターはしっかり捉えられている。定刻に遅れ、白人べーシスト一人を伴って会場に現れたサムは、現地でサム・レイという、当時のシカゴ・ブルース界で最も切れの良いドラマーと競演することになる。ドライヴのかかった(1)を聴け![03]のスタジオ盤とは雲泥の差で、正に鬼気迫る演奏だ!続く(2)は[02]の再演だが、トリオでこのテンションの演奏をするとは!サム・レイのドラムスが音の透き間を見事に埋めている。スタイルはまるで違うが、ジミ。ヘンドリックス・エクスペアリアンスに通じるものを感じる。[04]で取り上げた(3)は、元々このギター・アレンジが、トリオなど小編制での演奏から生み出されたものだということを感じさせる。余計な音はひとつもいらない、タイトな演奏だ。サムのリズム感の良さが、サム・レイとぴったりマッチしている。
パーシー・メイフィールド作のスローブルース(4)は、完全にサム節になっている。サムは歌い回しからすると、おそらくジュニア・パーカーのヴァージョンからインスパイアされたものと思われるが、ぐっとテンポを落とし、情感溢れる作品に仕上げている。それにしてもレスポンス部分のギターの複音フレーズによる処理は、小編制による演奏ならでは。一転して(5)は切れ味とスピード感抜群で、こりゃ観客は総立ちだろう!ひょっとすると阿波踊り状態だったかもしれない。自作の代表曲(6)は、イントロでベースがよれよれになったりするが、さすが十八番!サム自身がどんどん乗っていくのが分かる。その勢いは(7)に引き継がれ、爆発する。この演奏、もう何も申すまい!拍手が鳴りやまない。
B.B.キングのシャッフル(8)を、トリオのタイトな演奏で決めた後、ライヴの最後を飾るブギ(9),(10)はもう圧巻と言うしかない。この手拍子、歓声、拍手を聴けば、会場が熱狂の坩堝と化していたことが分かろうというもの。蝋燭は消える前に輝きを増すというが、まばゆいばかりの閃光だ。
このライヴ盤、CD1枚のダイジェスト盤も出ているが、ぜひこの2枚組を聴いて欲しい。なお、下段の写真はライナーの中に収録されたもので、おそらくアン・アーバーの時に撮影されたのだろう。LPのジャケットの元ネタだと思う。
[07] MAGIC TOUCH (BLACK TOP CD BT-1085)
- Juke
- Hate To See You Go
- Just Like A Fish
- Dirty Work Goin' On
- Rock Me
- I've Been Down So Long
- I Just Can't Please You
- I Just Got To Know
- Tore Down
- Scratch My Back
- Sawed Off Shotgun
- Backstroke
- All Your Love
- 19 Years Old
1966年、シルヴィオというシカゴのクラブでのライヴ。シェイキー・ジェイクとの共演(バンドはサムのバンドだろう)で、マック・トンプソン、オディ・ペインといった、直後に DELMARK で録音するメンバーがバックを務める。サムがメインをつとめるのは(2),(3),(6)〜(9),(12),(13)だ。まず笑えるのは(2)で、これはローウェル・フルソンの「リコンシダー・ベイビー」だよ。ギターもほぼコピーといえる演奏。しかし(3)番の最後の歌詞、つまりオリジナルで「Why don't you reconcider, baby」と唄われるところを、別のヴァースに差し替えてある。姑息だなぁ。なお、CDのクレジットでは A. Walker つまりT-ボーン・ウォーカーになっている。確かにT-ボーンは同名で「リコンシダー・ベイビー」をリメイクしているが、こちらとも歌詞が違う。
(3)はジュニア・パーカーのMERCURY時代の曲で、テンポとキーを上げての演奏。サムはこの人相当に好きなようだ。(5)は「アウト・オヴ・バッド・ラック」と同じ曲、このクレジットは J.B.Lenoir となっているが、歌詞がまるで違う。サムのオリジナルとするべきだ。ただし唄い出しの節回しなど、ルノアのヴァージョンの影響は受けていると思うが。作者不明とされている(7)は、シカゴのジミー・ロビンズというシンガーの1966年のスマッシュ・ヒット「アイ・キャント・プリーズ・ユー」(JERHART 207 ;「Chi Town Blues & Soul」 P-VINE PLP-9005/6 所収)。この曲はのちにB.B.キングも取り上げているそうだ*1。(8)は[06]でも取り上げていたので、ライヴでは定番だったのだろう。やっぱり客が唄っている。9も同様だが、唄い回し等にサム自身のオリジナリティを出そうという工夫が感じられる。(12)はリズムをエイトビートに変えてモダンな感じにしてある。(13)もかなり DELMARK 時代に近い歌い回しになっている。残りのシェイキー・ジェイクのバッキングに回ったものも仲々いいギターを弾いていて、特に(1)のバッキングなんて、「上手いなぁ」とひたすら感心してしまった。余談だが、このジャケットに写るローズ指板の白いストラト、昔欲しかった。
*1鈴木啓志「SOUL CITY U.S.A. −無冠のソウル・スター列伝−」(リトル・モア 2000)p.260
[08] GIVE ME TIME (DELMARK/P-VINE PCD-1836)
- Give Me Time
- You Belong To Me
- That's Why I'm Crying
- You're So Fine
- Come Into My Arms
- I Can't Quit You Baby
- Sweet Little Angel
- That's All I Need
- What Have I Done Wrong
- Baby, You Torture My Soul
- I'm So Glad
- Shake A Hand
自宅にテレコを持ち込んで、弾き語りで録音したプライヴェート・レコーディングとでもいうもの。ジャケットに写るサムの写真もプライヴェートっぽい。こんなものが出てしまうのが、サムならではとはいえるが、やはり悲しい。タイトルも「時間をくれ」と、ぐっと来るものがある。
さて、タイトル曲(1)は[03]-(1)に通じるソウル・ナンバー。また(4)はファルコンズのヒット(僕は残念ながら未聴、スヌークス・イーグリンも演ってた)だが、僕はここにサム・クックの影響を感じる。それもそのはず、この曲のリード・ヴォーカルはジョー・スタブスで、鈴木啓志氏によれば、「サム・クックに強く惹かれるような」人物*1だそうだ。(12)はリトル・リチャードのバラード・ナンバーだが、シカゴ・ソウルのような肌合いで唄っていて仲々よい。(3)は1966年に「Sweet Home Chicago」などで演った曲。(6)はラッシュ、(7)はB.B.キングの超有名スローブルース。(11)は「シー・ビロングス・トゥ・ミー」、なお、(5)はたまたまサムの家に来ていたエディ・ボイドが唄ったものだそうだ。
*1 鈴木啓志「新版 R&B・ソウルの世界」(ミュージック・マガジン 1997)p.47
[09] ...WITH A FEELING (WESTSIDE WESA 890)
- All Your Love
- Love Me With A Feeling
- Everything Gonna Be Alright
- Look Watcha Done
- All Night Long
- All My Whole Life
- Easy Baby
- 21 Days In Jail
- Love Me This Way
- Magic Rocker
- My Love Is Your Love
- Mr. Charlie
- Square Dance Rock -pt. 1
- Square Dance Rock -pt. 2
- Every Night About This Time
- Do The Camel Walk
- Blue Light Boogie
- You Don't Have To Work
- Out Of Bad Luck
- She Belongs To Me
- Roll Your Money Maker
- Call Me If You Need Me
- Respect Me Baby
- A Hard Road
- Love Me With A Feeling -take 1
- Everything Gonna Be Alright -alt.
- 21 Days In Jail -take 2
- Easy Baby -2 test & take 5
初期のマジック・サムは長らく[01]が決定版であったが、ここにきて新たにリマスタリングした盤がリリースされた。一部の曲は今回マスターからおこされているなど、劇的に音質が向上した曲もある。このシリーズ全体にいえるが、モノクロの渋いジャケットで雰囲気を盛り上げている。
(3)〜(6),(9)〜(16),(18)〜(22)は[01]と同じもの。今回最大のミステリーは(7)で、[01]とはテイクが違う。2番の歌詞の最後が明らかに違い、ドラムの入り方なども異なる。初めどちらが本テイクか不明だったが、P-VINEの高地さんにお尋ねしたところ、今回のものが本テイクとの返事をいただいた。ちなみに「Blues Records」のディスコグラフィによれば、「イージー・ベイビー」は5テイク知られており、そのうち(3)テイクが完全版だ。なお、(28)は[01]のものに比べて半音ほどピッチが低く、遅い。マスタリングの時の回転数処理の差だろう。おそらくキーから判断すると、[01]の方が速めなのだと思う。
また、(1),(2)についてもよく聴き直してみると[01]のものとはテイクが違っている。(1)はイントロのギターのフレーズ等が若干異なり、(2)は2番の歌い回しが明らかに違っていた。これはP-VINEの方に確認したところ、今回収録されているものが本テイクとのことだ。
続く(8)は[01]のものより2コーラス短い編集が施されたもの。これがイシュード・テイクの本来の形であろう。また(27)は[01]の冒頭にあったセッション風景がカットされている。17も[01]のものとは別テイクで、キーが高く、女性コーラス入りで歌い回し、歌詞も違う。ブリッジなんてまるで違っている。こちらの方が出来がいいので、これがイシュード・テイクではないだろうか。(25)と(26)は別テイクとされているが、(25)の方は(2)より若干ピッチが遅いが、同一のテイクだ。(26)の方はキーが低いためかちょっと張りがない。また、バッキングのギターがおとなしい。ギターソロも控えめで、けっこう初期のテイクだろう。
(23)と(24)はShakey Joke(もちろんShakey Jakeの変名、まさにジョーク!)の曲で、サムはギターを弾いている。いずれも典型的なシカゴ・スロー・チューンで、ルイス・マイヤーズが思いっ切りアンプリファイドしたハープを吹きまくっている。唄はかなり絶叫型。
[10] OUT OF BAD LUCK - THE COBRA, CHIEF & CRASH SESSIONS 1957-1966 (P-VINE PCD-24062)
- All Your Love
- Love Me With A Feeling
- Everything Gonna Be Alright
- Look Watcha Done
- All Night Long
- All My Whole Life
- Call Me If You Need Me
- Roll Your Money Maker
- Easy Baby
- 21 Days In Jail
- Love Me This Way
- Magic Rocker
- Mr. Charlie
- You Don't Have To Work
- My Love Is Your Love
- Square Dance Rock -pt. 1
- Square Dance Rock -pt. 2
- Every Night About This Time
- Do The Camel Walk
- Blue Light Boogie
- Out Of Bad Luck
- She Belongs To Me
- Respect Me Baby
- A Hard Road
- Love Me With A Feeling -alt. take
- Easy Baby -alt. take
- She Belongs To Me -take 8
- Out Of Bad Luck -take 1
- That's Why I'm Crying
[09]とほぼ同一音源を用いた決定盤がP-VINEからもリリースされた。かつて[06]のLP盤の中ジャケットに使われていたポーズを決めるサムの写真に、手書き風のタイトルを入れた洒落たスリーブとなった。中身は(1)〜(26)までが[09]と同一(ただし(26)は前半のセッション風景はカットされている)だが、凄いのは残り3曲だ。このためだけに買ってもいいくらい。
(27)は(22)の別テイクで、セッション風景も収録されている。本テイクよりかなり遅めの演奏だが、むしろファンクネスを感じさせる演奏で僕はかなり気に入っている。次の(28)が今回最大の目玉で、何と去年発見された(21)の別テイクだ。非常にゆったりとした演奏だが、テンションは決して低くない。情感などは本テイクと甲乙付けがたい出来でまさに「掘り出し物」だ。
(29)はブルース&ソウル・レコーズのおまけCD「Slammin' Blues Guitar」 (BLUES & SOUL RECORDS PCD-96-03)に収録されていたもので、今回のライナーによれば[A]-(7)の録音の2日前、ボブ・リーの下で録音されたものだということ。ややちゃちな感じの演奏ではあるが、曲はなかなか感情がこもっている。
[11] THE ESSENCIAL MAGIC SAM (FUEL 2000 302 061 104 2)
- All Your Love
- Love Me With A Feeling
- Everything Gonna Be Alright
- Look Watcha Done
- All Night Long
- All My Whole Life
- Easy Baby
- 21 Days In Jail
- Love Me This Way
- Magic Rocker
- Mr. Charlie
- My Love Is Your Love
- Square Dance Rock -pt. 1
- Square Dance Rock -pt. 2
- Every Night About This Time
- Do The Camel Walk
- You Don't Have To Work
- Blue Light Boogie
- Out Of Bad Luck
- She Belongs To Me
- All Your Love -alt. take
- Love Me With A Feeling -alt. take
- Everything Gonna Be Alright -alt. take
- Easy Baby -alt.take (take 3)
- 21 Days In Jail -alt. take
- Everything Gonna Be Alright -alt. take
[09][10]と同一の音源からのコンピ、よって収録曲も同じ。(21)と(24)が[09][10]にないテイクと思いきや、(21)は曲の頭が切れていること、ややピッチが遅いことを除くと、(1)と同じ演奏。他方(24)もセッション風景が入っていて、"Take 3"とアナウンスが収録されているが、これも中身は(7)と同一だった。着色カラーのスリーブ写真はけっこういいと思うが。
[12] 1957-1966 (PAULA PCD02)
- Everything Gonna Be Alright
- Look Watcha Done
- All My Whole Life
- Love Me With A Feeling
- All Your Love
- Call Me If You Need Me
- Roll Your Money Maker
- Easy Baby
- Magic Rocker
- Love Me This Way
- 21 Days In Jail
- All Night Long
- Out Of Bad Luck
- Every Night About This Time
- Blue Light Boogie
- You Don't Have To Work
- My Charlie
- My Love Is Your Love
- She Belongs To Me
- Respect Me Baby
- A Hard Road
これは古い盤で、収録曲はすべて[01]と同一。おそらく音源も同じだろう。青いジャケットが印象的な往年の名盤。(17)はもちろん"Mr. Charlie"の表記ミス。
[13] ROCKIN' WILD IN CHICAGO (DELMARK/P-VINE PCD-24126)
- Tremble
- Call Me When You Need Me
- How Long Can This Go On
- Every Night, Every Day
- Why Are You So Mean To Me
- Dirty Work Going On
- Further On Up The Road
- It's All Your Fault Baby
- Looking Good
- Keep On Loving Me Baby
- I Found Me A New Love
- Got My Mojo Working
- I Don't Want No Woman
- Just A Little Bit
- Tore Down
- Rockin' Wild
21世紀になって、こんな「蔵出し音源」が出てきた。基本的には[06]のDISK 1の延長線といえるローファイな録音のライヴだが、1966年、68年のクラブ演奏も収録、生々しいサムに出会える。
とりあえず録音の古い順に聴いていくと、[06]-DISK 1と同じ1963年10月シカゴはアレックス・クラブでの録音が(9),(10),(12)だ。(9)は[06]のものと同一の演奏だが、冒頭1分あまりの「ブルーマンディ・パーティ」についてのMC(エディ・ショウ、サムが"Thank You, Eddie"と言っている。)がカットされ、逆に[06]ではカットされていたエディが"I say, It's good to you""Baby"と連呼している部分(計2ヶ所のようだ)が収録されている。続く(10)は[04]でも取り上げるオーティス・ラッシュのナンバー。伸びやかなギターが心地良く、延々続くエンディングで盛り上げる。[04]より勢いがあってぐっと好演だと思う。めずらしいのは(12)で、もちろんマディで有名な、というよりは泣く児も黙る?超有名曲。歌はキーが低すぎて苦労しているが、カッティングの切れなどさすが。ソロも完全にサムのスタイルで、ウエストサイド・スタイルがはっきり分かるギターだ。
(11)はこれも[06]に収録されていたのと同じ1964年2月のアレックス・クラブ録音だ。リトル・ミルトンのBOBBIN時代の曲で、[03]に収録されている。こうして聴くとDELMARK時代に録音した曲はこの時代にやっていたものが多く、スタイルもすでに完成されている。
(1)〜(8)は1966年10月コパカバーナ録音で、一番油の載ってきた頃の演奏と言える。まず(1)はアルバート・コリンズの切れ味のいいインストをさらに高速化。コードワークとメロディの切り替えの速さはさすがだ。ジュニア・パーカーの都会的な曲をさらにアップテンポにした(3)は、歌にはまだやや青さを感じるが、ギターはスピード感があり、モダンで素晴らしい。やはりサムはジュニア・パーカーの声質がお気に入りのようだ。(4)はジミー・マクラックリンの曲で[03]に収録されたもののプロトタイプのようだ。サムはマイナー系が得意だなぁ。
続く(5)はアルバート・キングのBOBBIN時代のスマートなシャッフルをこれも高速化。サムのモダン指向と性急さがよく分かる曲だと思う。[04]に収録されている(8)はクレジットはフルソンだが、完全なサムの曲になっている。この歌あたりはかなり歌い込まれた感じで、この時期に完成していたのが分かる。
残る(2),(6),(7)はシェイキー・ジェイクの歌。でもこの録音状態で聴くと、ジェイクとサムの声質の区別が実につきにくい。それだけサムの歌はジェイクからの影響が大きかったと言えそうだ。ジェイクの十八番(2)のギターの切れ込み、たたみかけ、さらにマイナー系のコード使いなどいかにもサムらしい。トリルなどはある面ジミ・ヘンドリックスに通じるかな。(6)はリトル・ジョー・ブルーの持ち歌で[07]でもやっていた。サムはジェイクのバックに回ると弾きまくり、ギターソロも大きめなフレーズで良く抜けている。ボビー・ブランドの代表曲7のギターもかっこいい。
残る(13)〜(16)はマザー・ブルースという所(おそらくクラブ)でのライヴ。バックは不明となっているが、カウベルの使い方などからドラムはオディ・ペインだと思われる。ベースもおそらくマック・トンプソンだろう(ライナーで小出さんも同様の判断をしている)。(13)はギターなど[13]とほぼ同じ(スタジオ盤では一部フレーズにミスがあったがこちらは完璧)で完成度が高く、歌もかなり上手くなっているのが分かる。(15)も[06]収録のアレックス・クラブのものとほぼ同じイントロで始まり、ソロは気持ちがいいほどよく弾けている。
面白いのは(14)で、[04]ではオリジナルにほぼ忠実にやっていたのに対し、こちらはマイナーのミディアムシャッフルにアレンジした演奏で摩訶不思議な雰囲気が漂っている。そしてラスト(16)はタイトルにもなったアール・フッカーのインスト。この切れ味のすごさ!オリジナルをF-1並みに加速したプレイが強烈だ。これ1曲でこのアルバムの価値は不動になったと言える。
最後に、この音源については「ブルース&ソウル・レコーズ48」のクロスレビューを担当することができたため、CD発売以前に聴くことができた。各曲についてのコメントはその時点での感想をベースにしている。またオレンジ色にモノクロのジャケット、なかなかインパクトが強くて気に入っている。
その他の録音
[A]: SWEET HOME CHICAGO (DELMARK DD-618)
- That's Why I'm Crying
- Riding High
- Bad Luck Blues
- Blues For The West Side
[A]の DELMARK の名コンピレーションには4曲((8),(10)はエディ・ショウと共演したインスト)収録されている。(7),(9)は CRASH などで同時期に録音しており、(9)は「アウト・オヴ・バッド・ラック」だ。(7)はマイナーのスローで、ラッシュに通じるムード、(9)は[01]-(23)の方が名演と思うが、出来は決して悪くない。(8)は[06]でも取り上げていた御機嫌なロッキン・インスト。(10)はスローのインストで、エディ・ショウが気持ちよくブロウしている。全体にリヴァーブが押さえめで、ドライな録音になっている。でも、このアルバムのジャケット、結構渋くて好きだ。
[B]: AMERICAN FORK BLUES FESTIVAL 1965 / 1966 / 1967 / 1969 (BELLAPHON CDLR 726222)
DISK 4
- Easy Baby
- Lookin' Good
アメリカン・フォーク・ブルース・フェスティヴァルはいろいろな形でリイシューされているが、[B]は4枚組にまとめたもの。2002年リリース。この1969年の中にサムが2曲入っていたのは完全に見落としていたと思ったら、[02]に収録されていたものと同じだった。ところでこのジャケット、LP時代のジャケットが下に4枚並んで写っているが、昔よく見かけたなぁ。なぜか触手が伸びなかったけど。「フォーク・ブルース」ってタイトルが敬遠させる原因だったと思う。
[C]: AT THE COBRA STUDIO, 1956-1958 (P-VINE PCD-2350)
- 21 Days In Jail
- Love Me With A Feeling
- Easy Baby
- Magic Rocker
こちらは1992年にリリースされたCOBRAのアウトテイク集で、バディ・ガイ、オーティス・ラッシュと共にサムも4曲収録されている。
(5)はイントロだけのテイク2に続き、元気の良いテイク3が収録されている。どうやらギターソロでコード進行を見失ってしまったようで、ソロの直後に尻切れとんぼのように終わっている。続く(6)の最初のテイクはちょっと自信なさげに歌うサムで、まだこなれていない感じ。次がテイク3のようで、ドラムが遅れて入り中断、何度か失敗を繰り返した後もう一度完全テイクが録られているが、いずれも上記の各CDには未収録。
問題は(7)で、最初のテイクはイントロからバタバタした感じで歌に入ってすぐに切れている。続くテイクは完奏されているが、実はこれが本テイクだった。[09]などに入っているイシュードテイクはこのテイクのソロの後の歌を1コーラスカットしたヴァージョンが用いられている。インストの(8)はイシュードテイクとあまり出来に差がないヴァージョン。どちらかというとギターは元気に弾けているようにも思うが。
この他、Homer Walker Jr. 名義の2曲"Move Back Baby" / "Do Uncle Willie's Dance"(SPECIAL AGENT 202)が、マジック・サム、エディ・ショウの演奏だとされている。僕は「Guitar Star」(RED LIGHTNIN' RL 0017)という海賊盤らしきコンピ(ジャケットも怪しい雰囲気)で聴いたが、前者は「ライディン・ハイ」に通じる御機嫌なロッキン・インスト、後者はいかにもサム!といったイントロで始まる歌もので、歌は並であるが、特にエディ・ショウらしきサックスがかっこいい。
また、シェイキー・ジェイクの「Time Have No Pity」という曲で、サムがデュエットしているそうだ*1。さらに1969年に BRIGHT STAR から"I'll Pay You Back"という、小出斉氏によると、アイズレー・ブラザーズの「イッツ・ユア・シング」風のシングル*2を出した。江戸川スリムさんのご厚意により、その音を聴かせていただいたが、歌詞(かなり変更はしてある)やホーンのアレンジなど、サム版「イッツ・ユア・シング」と言い切って良いと思う。またそのB面は、同曲のカラオケ・ヴァージョン「Sam's Funk」である。鈴木啓志氏によれば、ジェームズ・ブラウン風*3と書かれているが、やはりアイズレー風と言った方が適切であろう。それから音は20年以上前に聴いていたにもかかわらず最近気付いたのだが、ハロルド・バラージェの1956年の曲"Hot Dog And A Bottle Of Pop"(COBRA unissued)のバックで、チャラチャラとしたギターを弾いている。
*1 「ブルース&ソウル・レコーズ」No.4 p.73
*2 「レコード・コレクターズ」1999.1 p.91
*3 前掲「新版 R&B・ソウルの世界」p.63
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