CHRIS ARDOIN AND DOUBLE CLUTCHIN'の CD
*注 ここに紹介するCDは僕の保有するものであり、決してすべてを網羅しているわけではありません。
[01] THAT'S DA LICK! (MAISON DE SOUL MDS 1051-2)
- I Like That Me
- Tail Riders
- (Good Man) Bon Homme
- Bumpin' Grind
- That's The Lick
- Three Way
- Black Cadillac
- Bud
- Turn It Loose
- Don't Shake That Tree
- Angelique
- Clifton
- You Left Me
- Load 'Em Up
クリス若干13才でのデビュー盤だが、実質的にはショーンのアルバムといっても良い。アコーディオンはクリスだが、すべての作曲とリードヴォーカルはドラムのショーン・アルドワンだ。にもかかわらず、モノクロで、いかにも「中坊」って言った雰囲気で初々しさがにじみ出ているジャケットを前面に出し、クリス名義にしたのは、アコーディオンを前面に出すザディコの伝統なのか、はたまた注目度を上げる商業戦術なのか。録音のせいか音質はややこもり気味だが、この時点ですでに新しい試みがかなり見える。他のメンバーはハーマン・ギルディ(ギター)、エリカ・アルドワン、クインシー・アレックス(ラブボード)で、ほぼ全員がコーラスを取る。
基本的にはトゥー・ステップの曲が多く、(1)、(2)、(4)〜(6)、(9)、(13)と過半を占めるが、全体にドラムがタイトで、コーラスにゴスペル風味を感じる曲が多い。クリスのアコーディオンはまだまだ成長途上にも思えるが、リズム感の良さは天性のものがある。(5)のコーラスからはマーヴィン・ゲイやレイ・チャールズからの引用を感じる。アコーディオンのフラップ?がパタパタという音が何とも生々しい。
面白いのはちょっとファンキーなリズムの(7)。歌は掛け合いで、途中"My Baby Like I Like That"というクリス・ケナー由来と思われる歌詞が印象的。結構ギターが目立っている。また(11)はビートルズの「デイ・トリッパー」をパクったようなリフやコーラスワークが微笑ましい。どうやらクリフトン・シェニエやロッキン・ドゥプシーについて歌ったと思われる(12)もファンキーなリズムのスリーコード。途中「ボン・トン・ルーレ」なんて掛け声も入る。(8)あたりからはすでにレゲエのリズムに近いものを感じてしまう。
後はスローで、(10)はスローブルース。張りのあるショーンのヴォーカルに絡みつくダイアトニックのアコのフレーズが面白い。ケイジャン・アコじゃないのかしら?珍しくギターソロもあり。チープな音だけどけっこういい感じ。そしてショーンの声も若々しいワルツ(3)はベースが結構ブーミーでファンキーな感じ。リズムがゆったりせず、どこか縦ノリの感じがあるのが彼ららしい。
全体に若さと青さが残っているけど、すでにこの時代にアプローチの方向が見えているのが凄い。ダブル・クラッチン起動の記念すべき1枚だ。
[02] LICK IT UP (MAISON DE SOUL MDS 1058)
- Good Times
- Texas Two Step
- I Need You Now
- Play That Thang
- Lick It Up!
- Hey Stephanie
- Hey Joe Pitre
- Get It On
- Uncle Bud
- I Don't Know
- In A Rush
- Geed-Up
- Come Back Home
- I Wonder
1995年リリースのこのアルバムは現在かなりレアなようで、何とか入手できた。ジャケでは珍しくクリスは3ローのアコーディオンをかかえている。クリスとショーンの他、ピーター・ジェイコブ(スクラブボード)、アルフォンセ・アルドワン(ベース)、レイ・ジョンソン(ギター)。曲はほとんどがダンスチューン。
(2)(3)(7)(8)(13)は軽快なトゥーステップでノリが良いが、特に(3)はクリスらしいパーカッシヴなアコーディオンが印象的。マイナーとメジャーのコードが交互に出る(11)でもクリスのヴォーカルが活躍している。(8)は(7)に似た曲だが、マイナーコードの部分でクリスが「ガット・トゥ・ゲット・イット・オン」と歌うのがキャッチー。
クリスに比べショーンの歌はソウルフルで、(9)や(12)はその代表的なもの。特に(12)ではクリスのアコーディオンがショーンのヴォーカルに絡みついていい感じ。そうしたショーンの趣味だと思われるのがめずらしいスローブルースの(14)で、ギター、アコーディオンのソロがたっぷり。ショーンはかなりがなり気味で、途中ボビー・ブランドみたいなシャウトもかませたりして思い入れたっぷり。
一方(4)は長尺のファンキーなトゥーステップ。エフェクトをたっぷりかけたベースソロをフューチャーしてあり、ギターソロもたっぷり。かなりクールな曲調は後の作品で開花していく。マイナーの(6)も麻薬のように身体を揺さぶるリフの繰り返しに、コーラスのかかったギターとエフェクトの効いたベースが雰囲気を高める。ゆったり目の(10)もベースが効いた重心の低い曲。 歌詞に「ワイ・キキ」というライヴハウスの名前が織り込まれている(1)や、クールな(5)はシャッフルだが、基本的にはダンスを意識しているサウンド。ブルースやブギの香りは少なく、トゥーステップの曲よりクールな印象を受ける。
全体にクリスが自己主張を強く始めたアルバムと言え、だんだんショーンとのカラーの差がはっきりしてきたように思える。でも「踊らせる」音楽としてのザディコに徹した好盤で、再発が望まれる。
[03] GON' BE JUS' FINE (ROUNDER CD 2127)
- Lake Charles Conection
- Beauty In Your Eyes
- When I'm Dead And Gone
- Cowboy
- Ardoin Two Step
- Gon' Be Jus' Fine (Double Clutchin' Theme)
- I Believe In You
- We Are The Boys
- I Don't Want What I Can't Keep
- Dimanche Apres Midi (Sunday Morning)
- Angel
- Back Door Man
- When The Morning Comes
- We Are The Boys (Special Bad Boys Dance Mix)
大手?ROUNDER移籍第一弾。そのせいで緊張しているのか、ジャケットでは成長したクリスが真面目くさった雰囲気でアコーディオンを広げている。メンバーはクリス、ショーンの他タミー・レデット(ラブボード)、デレク・グリーンウッド(ベース)、ガブリエル・ペロディン(ギター)。ほぼ全員がコーラスや掛け声を入れている。
今作もトゥーステップ系のダンスチューンが多数を占めており、アコーディオンがスピード感と切れ味を増し、ヴォーカルもクリスのウエイトが高まっている。ベースも動きが多く、(2)、(7)、(11)、(13)あたりかなりファンキーな雰囲気が漂う。(3)などかなりポップなコード進行で、3連符を多用するアコーディオンも格好良く、僕のお気に入り。(8)はファンキーなワンコードで、これをリミックスしたボーナストラック(14)はアコーディオンにまでエフェクタをかけたヒップホップのようなヴァージョンで、この辺に彼らの指向が見える。
(1)は切れ味のいいリズムのマイナーシャッフルで、モダンなソウルナンバーに通じる雰囲気、コーラスワークなどにゴスペルの香りを感じる。ギターが結構ブルージーなソロを弾く中、ドライなクリスのアコと、張りのあるショーンのヴォーカルが実に見事にマッチしている。一方ミディアムの(6)やシャッフル系の(9)からはレゲエやヒップホップの香りが感じられる。後者のブレイク後のギター・カッティングはまるでJ.B.の「ファンキー・グッド・タイム」だ。
(4)はミディアムのソウルフルなナンバー。クリスの歌にはまだ蒼さを感じるけど、緩やかでメロディアスな曲調が清々しい。アコーディオンのせいかやっぱりルイジアナ風味が効いている。また(12)もポップなソウルナンバーで、多分ショーンが柔らかく伸びやかな声で歌う。
このアルバムでは伝統的なクレオール音楽も取り上げている。(5)はアマディ・アルドワン作の伝統的な味わいをたっぷりのトゥーステップで、しっかり基礎からトレーニングされたのが分かるアコーディオンのソロからスタート。疾走感のある曲調で、古くささは微塵も感じられない。また(10)は祖父のボワ・セック作の正調ケイジャン・ワルツとでもいうべき曲で、掛け声、ヴォーカルも伝統にのっとったもの。ビートが少し強めだけれど、一方でこうした曲をきちんとこなしているのがクリスの魅力になっていると思う。
[04] TURN THE PAGE (ROUNDER 11661-2157-2)
- Your Love Keeps Lifting Me (Higher And Higher)
- Talk Talk
- Acting The Devil
- Turn The Page
- Give It Up
- Stay In Or Stay Out - Pass The Dutchie
- Tiffany Two Step
- I Got My Name
- Friends Ain't Forever
- Feel The Pain
- Before The Deal Was Done
- My Baby Done Gone
- Barres De La Prison
- Early One Morning
- Double Clutchin' Old Style
- Faver For Your Flavor
- Outro
1998年の作品で、メンバーはギターがボビー・ブロッサードとナザニエル・フォンッテノットに替わったほかは前作と同じ。裏ジャケットでアルドワン兄弟に寄り添っていた4人の美女が名残惜しそうにさっていく意味深な写真。いかにも南西ルイジアナといった風景が嬉しい。
アルバムはなんとジャッキー・ウィルソンの超有名曲をザディコ化した(1)でスタート!兄を中心とするコーラスが気持ち良く響き、リズムも軽快で楽しいチューン。クリスのアコも速いフレーズを切れ味よく弾いていて、どんどん進歩している感じ。(3)はトゥーステップだけどかなりカリブ海を感じさせるメロディとコーラス。ノリも軽く、しゃがれたクリスの歌にショーンとラブボードのタミー・レデットの張りのあるハイトーンな声が絡んでいくのが若々しい。クリスが歌う(6)はヴォーカルに深みが増して、ケイジャンやザディコの伝統を感じると同時にコーラスからはレゲエの香りがプンプン。何だかカリブを通り越してアフリカまで行き着いたような感じもある。またサム・クックの「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」を思い出させるコード進行のトゥーステップ(9)Gは、ベースが結構ファンキーにブイブイうなっているのをバックに、縦横無尽にクリスのアコが駆け巡る。これは誰しも「ファイアー」と煽りたくなる凄い演奏だ。
このアルバムではリズムが多彩になってきている。ショーンがヴォーカルを取る(2)はシャッフル系のリズムのマイナーチューンで、メロディアスなアコーディオンからは哀愁を感じるが、ファンキーなベースもあってクールな印象。空間系のエフェクトをかけたギターのカッティングも気持ちいい。コーラスワークも素敵だ。(7)もシャッフル系のリズムだけど、例えばクリフトン・シェニエやバックウィートのようなブギ的なノリではなく、もっと縦ノリでやっぱりレゲエなどに通じるリズム。ベースラインとかはかなりブルース寄りだけど、全体にブルース色を感じさせないのはクリスの歌うメロディラインとアコーディオン、そしてコーラスのせいだろう。最もザディコからはなれたタイプの曲は、マイナーのファンクムードたっぷりの(16)で、打ち込みのドラムがかぶせてあったり、トレモロの効いたギターのリフとか、ちらっと「ピンク・パンサー」を感じさせるアコのフレーズとか、ベース2弦弾きとか、とにかくヒップホップ世代のファンクを感じる。一方(4)はゆったりしたソウルナンバーで、多分クリスのファルセット気味のヴォーカルが優しく響く。サビのコーラスも美しく、いわゆるザディコとはまったく異なる世界の曲。クリスはメロディアスなアコだけでなくギターソロも披露。これが結構情緒的でいい。
ダブル・クラッチン得意な新世代のトゥーステップももちろんたくさんある。マイナーの(5)では途中ベースやギターを消し、兄弟ふたりのプレーになるソロの部分が聴き所になっている。また(12)はゆったり目のマイナーのトゥーステップで、ベースがかなりファンキー!ゴスペルの影響を感じるコーラスが印象的だ。ボビー・ブロッサードのギターソロもコンパクトだけどインパクトがある。軽快で明るい(8)は、クリスの歌がメジャーペンタトニックなメロディのようで、それが途中挿入されるマイナーコードと絡んで、かなり個性的な響きになってる。シンプルなコード進行で癖になりそうな曲だ。
ベースがディスコ調に裏リズムを埋めてくるんでかなりファンキーさが増している(10)や、リズム的にはスカみたいな感じの(14)、レゲエみたいな後ノリ感の強い(15)など、アコーディオンの切れ味がが凄く、パーカッシヴで素早い指さばきが見事だ。(11)はスリーコードのアップナンバー。クリス版のロックンロールと言ったところか。いつになくブルージーなフレーズで疾走するアコーディオンがイカしている。(17)はショーンのドラムが大活躍するファンクチューンだ。
こうした新しさを感じるダンスチューンの中に、(13)のようなケイジャン・ワルツをさりげなく配するのが心憎い。力強いアコーディオンとヴォーカルで、こうした伝統的な曲を必ずアルバムに入れてくるのが、自分たちのルーツを大切にしているのがよく伝わってくる。
[05] BEST KEPT SECRET (ROUNDER 11661-2162-2)
- Holdin' On
- Papa Was A Rollin' Stone
- What You Got Down There? Part 2
- Best Kept Secret
- Hold That Tiger
- What's In That Bayou?
- Lyin' Cryin' Tryin'
- If It Makes You Happy / It Just Ain't Right
- I Don't Want Nobody Here But You
- Storm Don't Last Long
- Get Gone
- Chris's Trail Ride
2000年リリース。兄のショーンが独立して抜け、ドラムが従兄?のデクスター・アルドワンに交代、ベースもカーリー・チャップマンになったが、彼のローBの5弦を多用したベースの隙間が増え、ぐっとファンキーになった。ギターはナット・フォンテノット。またチャールズ・エラムV世が一部コーラスで参加している。タイトルを象徴するような南京錠に、ぐっと大人になったクリスの姿をあしらったジャケットからも、クリスのカラーがぐっと前に出ているのを感じる。
まずインパクトの強いのがテンプテーションズの大ヒット曲をトゥーステップに仕立てた(2)。ベースを2本入れリフを強調しながら、クリスのアコーディオンが縦横無尽に動き回る。まるで速弾きだ!この曲を聴くと、こうしたソウルナンバーからコーラスワークを学んだってことがよく分かる。同様のコーラスが入るファンキーなトゥーステップ風マイナー(4)は、ロージー・レデットの曲に通じるメロディラインを持つけど、こちらの方がコーラスも厚くずっと押しが強い。このドライヴ感がヒップホップに通じ、現地の若者達のクリス人気を支えているのではと思う。
(1)はマイナーのトゥーステップ風アップ。コーラスワークは前作までと違い、クリス自身の多重録音のようで、張りのあるショーンやタミーの声がいない分どっしりと落ち着いた感じ。合いの手もクリスが控えめに入れているだけ。そのためかかなりクールさが増した印象がある。ヴォーカルはかなり上手くなっている。ギターソロもクリスでコンパクトでかっこいい。明るい印象の(5)はワンコードでシンコペーションの効いた押しの強いリズムが、フロアを揺らしそうな感じ。アコーディオンもパーカッシヴでリズムを強烈に支える。また(7)は曲調などかなり伝統的な雰囲気を感じさせるが、歌のメロディはソウルフルだ。マイナーの(10)ではクリスは少し高い音域で歌っているけど、かなりソウルフルで本当に歌が上手くなっている。
ちょっとゆったりとした後ノリのエイトビート(3)では、ハイハットやラブボードは16を意識して刻んでいるため、かなりファンキーで強烈なドライヴ感が出ている。カーリーのベースはボトムが強く、そこに明るめのギターとアコーディオンがかぶっている。ワンコードで押してブレイクで解決するあたり、かなりロック的な曲だ。面白かったのはシャッフル系の(6)で、最初と最後にジージーと虫だか蛙だかの鳴く効果音が入り、ほっぺたに張り付いた蚊を叩き落とす?擬音など、いかにもバイユーの雰囲気を盛り上げている。後ノリでレゲエに通じるようなリズムとコーラス、クリスのアコーディオンはここでも素晴らしくリズミカルで多彩なフレーズを連発する。
このアルバムは特にレゲエに通じるビート感覚の曲が多いように感じる。(8)、(9)、(11)などに特にそうした印象を受けた。クリス達が直接レゲエを意識しているというより、彼ら自身が親しんでいるクラブミュージックに、レゲエの影響が浸透しているためかもしれない。シャッフル系のリズムを持つ(12)にさえも、どこかレゲエの影を感じるが、歌とコーラスのコール&レスポンスはゴスペル由来だろうか。どんどんモダンさを増してきたように思った。
[06] LIFE (J&S JS-6106)
- All See Is Pain
- Call Me
- 11:24
- Thinking About Leavin'
- I Got It
- Pass Me By
- Commitment
- Messd Up
- Your Body
- I'm The One
- La Rose Barree
- I Like That Feeling
- Parking Lot Pimpin'
2002年リリースの新譜。青紫のモノトーンのジャケットが中身のクールさを良く表している。でもクリス、歳を増してさすがにごつくなった。メンバーはまた代わり、オンビートでどっしりした重心で響くバスドラムが印象的なエリック・ミニックスに、隙間だらけのフォンキーなウェイン・シングルトンのベースのリズム隊は強力だ。ハロルド・ギロリーがラブボードを担当。ギターはナットのままだ。 このアルバムの特徴は、まずメロディラインが明解になったことだ。明るい曲調の(1)やキャッチーで軽快な(4)はその代表で、コーラスなどもより今のソウルミュージックに近い雰囲気になっている。(6)などジャッキー・ウィルソンあたりの影響を感じるソウルフルなトゥーステップで、ファルセットを交えた歌も艶を増している。軽々と演奏するアコーディオンだが、速弾きなどでのリズムの切れ味はバッチリ。さらにフレーズもより多彩になり、ぐっと進化したように思う。さらにモダンなソウル風のマイナーチューン(9)では、ギターのコードワークとかとても洒落ているし、タイトルをコーラスで連呼するあたりはキャッチーで覚えやすい。こういった曲はクリスの独壇場といった感じか。
(2)は高めのチューンのモダンでポップなメロディを持つトゥーステップで、ヴォーカルにはエフェクトがかけてある。ドラムのエリックが掛け声をかけるのがザディコの伝統を感じさせるか。ベース、ギターを外したアコーディオンのソロは圧巻だ。またドラマティックなイントロから始まるマイナーの(8)はドライヴ感のある演奏で、ダンスミュージックってことが強く感じられる。プロデューサのJ.ドゥーセの弾くロック風のギターソロがかっこいい。(10)もスピード感のあるマイナーで、リフがはっきりしていてタイトな演奏だ。ギターのコードなどはやっぱりレゲエっぽさを感じる。(7)もレゲエ風のリズムを持った曲で、ザディコの世界にいながら、どんどん新しい音を吸収し、そして自分の世界を作っているのがよく分かる。(12)はタイトなマイナーのアップナンバーで、ベースもよく動き、グルーヴィーでファンクネスを感じる。そしてラストナンバーの(13)もトゥーステップと呼べるとは思うが、これもリズムがタイトでファンキー。コーラスからはヒップホップなどに通じるものを感じ、途中のヴォーカルもラップになってる。これはある意味「ヒップホップ・ザディコ」なのだろうか?
今回はシャッフル系の曲にも魅力的なものが多い。(3)や(8)がそうで、スカスカのベースで縦ノリ感が強い。(3)などイカしたコーラスと軽々とリズムを刻むアコーディオンなど、クリスの魅力を思いっ切り引き出した曲で、途中のコール&レスポンスが楽しい。こうした中にあって、多分ボア・セックの持ち歌だった伝統的なケイジャンワルツ(11)がぐっと染み渡る。ヴォーカルのスタイルも伝統に乗っ取った感じ。でもこのバンドがやるとノリが縦になる感じなのがやはり世代を感じる。こうして音楽は芳醇になっていくように思った。
[07] SAVE THE LAST DANCE (J&S JS-6110)
- All About You
- Right On Time
- Save The Last Dance
- Work That Body
- I'm Not The Man
- Lonely Walz
- Little Time
- Master Key
- World You Go Back
- You Know I
- Pay My Bills
- Change Gone Come
- Far From Good
- Do It Like We Can
2004年リリース。青紫のトーンの中、物思いにふけったようなクリスのジャケットから、その成長と「大人」としての深みを感じることができるが、サウンドにもそうした面が増えてきている。前作とほぼ同じメンバーにキーボードが加わり、切れ味良くパーカッシヴなクリスのアコーディオンというスパイスを、ふっくらとしたパイ生地で包んだようなまろやかさを感じさせるサウンドになっている。
まずレゲエからの影響を強く感じるシャッフル系の(1),(2)(5)が印象的だ。隙間のあるベースにしゃきっとしたアコーディオンとギターのリズムを、暖かみのあるコーラスとキーボードが来るんで、ぐっとポップな感じになっている。クリスの歌もかなり上手くなってきた。これに対し同じシャッフル系でも(4)はどちらかと言えばブギ系のサウンドで、マイナーのせいもありぐっとファンキーな仕上がりだ。同じマイナーの(14)はぐっとボトムの効いたファンクネスを感じるトゥーステップで、ぐいぐいとドライヴしてくる。3ローのアコーディオンによるソロワークもかっこいい。
タイトル曲(3)はポップな仕上がりのシンプルなトゥーステップで、ワイドなコーラスワークとアタックの強いアコーディオンが心地好い。この辺をライヴのラストで延々やって踊らせるんじゃないのかな。ビートが立ちながらもどこかソフトな(9)も同様の路線で、もう少しサウンドに手を加えていくとブレークする可能性があると思うのだが。より軽快な(11)もかなりポップでソフトな印象を受ける。これが(10)になるとさらにキャッチーに跳ねており、このあたりが新世代ザディコのトレンドなのかと思う。
(7)はよりシンプルなトゥーステップで、しっかり伝統を踏まえながらも、ポップなメロディを上手く取り入れている。アコーディオンの押し引きが奏でる独特のビート感が隠し味。これが(8)になるとよりタイトでファンクネスが強まってくる。ハロルドとの掛け合いがかっこいい。ワンコードの(13)もお得意のアコーディオンのリフをよりパーカッシヴに利かせた感じで、16ビートを感じさせるラブボードがオーソドックスな曲調にモダンさを付け加えている。
このようなダンスチューンの中にあって、ケイジャン・ワルツ(6)はほっと息付く曲となっている。演奏にはモダンさがあるが、しっかりと伝統に根差した節回しで歌うクリスには、何か余裕のようなものも感じられ、その成長を伺うことができる。それはサム・クックの名曲(12)を取り上げていることからも感じられる。珍しくアコーディオンを弾かず、エレアコ・ギターとキーボードをバックに伸びやかに歌っているが、これはクリスが歌に対し相当な自信をつけてきた現れではないだろうか。
クリスは一作ごとに成長をはっきりと示している。自分の持ち味を活かしながら、一歩一歩前に出ているようだ。しかし一方でカーリー・テイラーのようにより大きく踏み出したものも出ている。兄のショーンも決してザディコの枠組みにとらわれていない。この辺りこれからのクリスがどう折り合いを付けるのか、興味は尽きない。
[08] SWEAT (CHRIS ARDOIN no number)
- The Shaw
- Who Is It?
- Chicken Run
- Sweat Interlude
- Sweat
- Sometimes
- On The Run
- Feelin' U
- Going Back
- Creepin'
- No Love Waltz
- Everyday
- Think
- Drag Me No More
- What Would U Do?
- Bury Me
- Ya Body Remix
2005年リリース。兄のショーンとは袂を分かち、バンド名も「ニューステップ」と改めた本作、いきなりP-ファンクみたいな語りから始まる(1)あたりから、クリスが兄に近い、今風のR&B(アーランビー)路線に踏み出したように感じる。嵐の擬音をバックにこれまた今風の語りの入る(4)をイントロにしたタイトル曲(5)も、リズムを思いきりタイトにして、ザディコをぐっとR&Bに近づけようと試みているように思う。オルガンと打ち込み風リズムを用いたマイナーの(8)もこの路線で、レゲエの風味も加味しながらコーラスを絡めていく手法は、ヒップホップにも通じる。ただソウルフルなショーンに比べ、ヴォーカルの線が細いクリスが、こうしたアコーディオンを主役にしないサウンドを作っても、あまり「売り」がないようにも思うのだが。
お得意のクールでタイトなトゥーステップももちろんやっている。(2)やシャッフルっぽいリズムの(7)はそうした曲の代表で、リズムは十分タイトだが、妙な言い方だけどザディコらしさがしっかり残っている。ミディアムの(9)も、いつものクリスらしい気持ちの良い縦ノリリズムと洒落たコーラスワークでなんだかほっとさせられる。こうした従来のクリスらしさを一番感じさせる曲は(12)で、この辺になると多分ラジオで流れても一発で彼の曲って分かるくらいの個性が出ている。もちろんアレンジはぐっとシャープで新しい感じにはなってるんだけど。
タイトなワンコードのトゥーステップ(13)では、クールなコーラスにクリス自身のうねうねしたギターソロが絡む。途中クラッピングを入れてリズムを強調するなど、ダンスチューンとしてクラブで流されることを意識しているように思われる。ラストの(17)は10分に及ぶ「ユア・ボディ」で、スローな始まりから途中テンポを上げてどんどんグルーヴを増していく、彼の当地でのライヴの様子を垣間見ることが出来る。一方循環コードのシャッフル系トゥーステップ(15)は、切れ味のいいアコーディオンが心地良い。曲がもう少し練られるともっと面白いのだが。
パーカッシヴなりズムとレゲエみたいなコード進行を持つ(6)は、節回しが大きく、エフェクトを上手く利用したクリスの歌が映える。この辺りの線を押していくと、クリスの良さが行かされつつ、新しいザディコに踏み出していけるように思うんだけど。(3)はスカ風のリズムを持つミディアムで、ゆったりしたドッグチェイスものといった感じ。ただしヴォーカルに思いっ切りエフェクトがかかったいるあたりに、クリスの行きたい方向を感じる。(10)は「ドゥー・イット・オールナイト」を低重心にしたようなリフを持つマイナーのトゥーステップで、クリスのパーカッシヴなアコーディオンが素晴らしい切れ味を聴かせる。(14)もちょっと引きずるような重たさを感じるリズムで、アコーディオンはまるでハーモニカのバンプみたい。こうした曲はクリスが多分目指すR&B路線とザディコの折り合いをどう付けるかという、過渡的なものを感じさせる。
この他クリスにしては珍しいブルースの弾き語り(16)や、伝統のリズムにモダンなコーラスを乗せたワルツの(11)など、アルバムに変化をつける工夫も感じられるが、全体としてちょっと散漫な印象を受けた。これはかなり確立されたこれまでのクリスのザディコという「殻」を、彼自身が食い破ろうとしているからではないだろうか。冒頭の繰り返しになるけど、兄とは分かれたが、おそらくより都会的なサウンドを目指す方向性は共通するものがあるのだと思う。ただ、伝統的なザディコに新しいリズムとコーラスを加えていく中で個性を開花させてきたクリスが、さらにそこから一歩踏み出そうとする、産みの苦しみのようなものを感じさせる。果たして吉と出るか凶と出るか、それは次作を待ちたい。
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