札幌発旅人通信 2000晩夏 第七号

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 残暑お見舞い申し上げます。厳しい残暑の日々が続いていますが、ここ北海道も例外ではなく、「まだまだ、暑いね…」というのが日々の挨拶という状態です。
 北海道のこの夏は、6月はカラリと晴れた初夏らしい日が多く、雨の多かった昨年同月を思うと、久々に北海道らしい夏、になるのでは、と期待したのですが、7月に入ると梅雨前線が北上したり、台風の直撃があったりで雨の日が多く、本州の梅雨のような一月となってしまいました。かと思えば、そんなぐずついた天気が晴れに転じた7月30日は、札幌で最高気温が観測史上最高の36℃を記録し、8月に入ってからも猛暑の日々が続きました。例年ならば、盆を過ぎれば秋風が吹くのが北海道ですが、月末を迎えた今のところまで、その気配はまだありません。
 とはいえ、本州のような熱帯夜はなく、暑さで眠りを妨げられることはなかったように思います。全国の天気予報の最高気温予想を見ていても、仮に札幌が29℃や30℃でも、本州以南の各地では30℃代後半の数字が並んでいたりするのを目の当たりにすると、やはりここ北海道は救われる…と考え至ったりもします。
 さて、有珠山の動向ですが、当初見込まれていた大規模なマグマ爆発の可能性はほぼなくなった、との見解が発表され、避難指示地区もほとんどが解除され、洞爺湖温泉街の営業も再開されました。しかし、今回の噴火で新たに出現した西側火口群に近い地区では、避難解除の見通しは立っておらず、また、温泉街への客足も、大幅に落ち込んでいるというのが現状のようです。噴火の危険性は去っても、地域の完全復興には多くの時間がかかるのが自然災害。復興に向けて努力する地元の人々に、陰ながらエールを送りたいと思います。
 以上、北海道&旅人、ナウ、でした。



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 連載 北の湯めぐり


 第七回 屈斜路湖畔の露天風呂めぐり

 道東の弟子屈町にある屈斜路湖は、道内ではサロマ湖に次ぐ面積を有し、阿寒国立公園の中心に位置している。美幌峠からの鳥観図は、絵ハガキやポスターでも広く紹介され、また、怪獣“クッシー”騒動でも知られ、すぐ隣りに位置する神秘の湖摩周湖にも、負けずとも劣らない知名度の湖ではないだろうか。
 典型的なカルデラ湖で、ほど近くには今なお噴煙を上げる硫黄山があるように、火山活動は続いており、当然のように湖岸には数多くの温泉が湧いている。そんな中で特筆すべきは、誰でも無料で入ることのできる露天風呂が点在しているということである。今回は、それらを紹介していこうと思う。
 湖岸南東に位置する川湯温泉は、道東屈指の著名温泉であり、多くのホテル、旅館が立ち並ぶほか、共同浴場もある。しかし、今回のメインテーマである無料露天風呂はないので、道道屈斜路摩周湖畔線で、湖岸を西へと進むことにしよう。
 クアハウスや数軒のホテル、旅館、保養所が点在する仁伏温泉を過ぎると、湖岸を掘れば湯が湧き出てくるという砂湯温泉へと至る。大駐車場があり、土産店に囲まれるように砂を掘った温泉がある。土産店の店頭には飲用の湯もあるが、いかんせん観光客の多いところで、おいそれと湯浴み、とはいかない。しかし、この砂湯中心部をやや離れても、湖岸を掘れば湯は出るので、人の近寄らない湖岸でひそかに砂湯、というのが通の楽しみ方と言えようか。
 さらに西へ進むと、池ノ湯温泉がある。かつては旅館も営業していたようだが、現在では廃業してしまい、湖に面した円形の露天風呂のみが訪れる人を迎えている。
 その露天風呂には、男女別の脱衣小屋があり、一度に二、三十人は入れそうな広さではあるが、湧出する源泉温度が低いため、管理をする弟子屈町によれば、開設期間は6月から9月までとなっている。それ以外の時期でも閉鎖されるということではないが、確かに11月に入った時には、ぬるくてとても入っていられなかったことを記憶している。夏限定の露天風呂、と覚えておくべきであろう。
 さらに湖岸を進むと、数軒の土産物屋や民宿のある古丹集落へ着く。この湖岸にもコタン温泉なる露天風呂がある。ここはコンクリートと石造りの浴槽で、男女別脱衣小屋があり、浴槽中央に大きな石が置かれ、取りあえず男女別にはなっている。とはいってもそれは湖側でつながっているので、限りなく混浴に近い。池ノ湯とは違い湯はかなり熱めだが、水道は引かれており、それで温度調節をしながら入って下さい、ということである。今回紹介する中では設備的には最も充実していると言えるが、湖を望むポジションは絶好で、眺望抜群の湯である。なお、すぐ近くには内湯の共同浴場もあり、半混浴の露天風呂はどうも、という向きにはお薦めである。
 道道をさらに西へ向かうと、国道243線へと突き当たる。それを右折し、美幌峠方向にしばらく進むと、やがて和琴半島入口の標識が現れる。それに従い右折をし、一直線に伸びだ道路を進むと、やがて右側にキャンプ場、左側には駐車場とビジターセンターが現れ、その先はごく細い道となってしまう。夏の観光シーズンには車止めがされてしまうが、それ以外の時期であれば、その細道をさらに進むと、右手には湖が展開し、およそ100メーターほどで和琴露天風呂へと到達する。左手の湖岸に面した半月形の露天風呂で、野興味もコタンに負けずとも劣らずだが、簡素な脱衣場こそあれど、完全混浴の露天風呂である。湯温の調節は、湖に流れ込むところの砂袋を地元の人達が調整して行っている。日中訪れるのは観光客が大半だが、夜になれば地元の人たちがとっかえひっかえ訪れ、賑わいをみせる。
 ここは、夏の観光シーズン以外は車で目前まで乗りつけられる上、公衆トイレもあるので、私的にはこの場所での車中泊を数多く行ってきた。本州の観光地ではまず考えにくいことだが、それがまかり通るのが北海道のおおらかさでもある。しかし、車を乗り入れる者のマナー次第では、乗り入れ自体が根底から規制されてしまう可能性もあり、その点には十分に気を配りたいものである。
 同じ和琴半島のさらに先には、遊歩道を歩いてしか行かれないところに、和琴共同浴場なる温泉もある。歩道から湖岸へ下りたところにある小さな無人の小屋がそれで、脱衣所と浴室が一つづつあるだけというシンプル極まりない浴場である。浴槽の湯が熱ければ、湖とつながっている排水口の開きを大きくし、逆にぬるければ開きを小さくしするということが書かれている。露天でこそないが、古来の温泉浴とはこういうものだったのか、ということを認識させられる湯である。
 この和琴半島は、ミンミンゼミの北限地としても知られている。というよりは、本州ではどこでも見られるミンミンゼミが、北海道ではこの一帯のみに生息している、という特殊な分布となっている。これは、地質学的に温暖な時期に本州から北海道にまで生息したいたものが、後の寒冷化で北海道からは姿を消したものの、火山活動で局地的に温暖であった和琴半島一帯のみに生き残った、という学説が有力らしい。火山活動は人間に温泉をもたらしたのみではなく、ミンミンゼミの生息環境をも守ったのである。
 
 近年、道内はもとより全国的にも公営温泉がブームで、あちらこちらに、低料金で設備の整った温泉施設が誕生しているのは喜ばしいことだが、時には、温泉本来の姿に限りなく近い、こういう野天の温泉というのも捨て難い魅力がある。しかもこの屈斜路湖畔の温泉群は、車であればアプローチもよく、手軽に入れるのも大きな魅力である。これからも道東方面へ足を運ぶ折りには、足げよく通うことになるであろう。(完)

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 グルメ情報

 二枚貝の王様、ホタテ貝を食す

 水産王国北海道にあっても、ことにホタテは、二枚貝の中の王様と呼んでよかろう。その水揚げ高は、二位の青森県を大きく引き離して全国一位であるばかりでなく、遠くフランスやスペインにまでも空輸で輸出されている。北海道が世界に誇れるものの一つが、道内産のホタテ貝なのである。
 産地として名高いのは、オホーツク沿岸と噴火湾一帯だが、その中でも特に天然ものに限りなく近い環境で養殖されるという北部オホーツク沿岸産のものが、身の締まりがよく、甘みが強くて美味だとされる。稚内の宗谷岬近くの大岬集落は、漁師の豪邸が立ち並ぶことで知られるが、それらは地元では「ホタテ御殿」と揶揄されている。
 料理法も様々で、生でよし、煮てよし焼いてよしで、一つの貝としての料理法のバラエティは、他の貝の追従を許さないものがある。では、具体的にそれらを紹介していこうか…
 本州、特に関東以南では高級食材のイメージの強いホタテだが、北海道では、スーパーの鮮魚コーナーで普通に見られる食材である。殻から外した「剥きホタテ」が一般的で、価格も100グラムあたり百円前後と、大衆的である。貝柱だけにしたものはもう少し値が張るが、あえてそれを買い求める人は少数派で、剥きホタテが貝売り場の大半を占めている。
 まずは王道の刺し身である。貝柱は独特の甘みがあり、ヒモもコリコリとした食感が魅力である。そして、春から初夏にかけては、ぷっくりと膨らんだ子も、当然刺し身で頂く。ウニに似た、何とも言い難い食感で、口の中でとろける感じがたまらない。もちろん貝柱、ヒモ、子とも、酢の物にしても最高であるが、特に子は酢との相性がよい。貝そのものは一年中味わえるが、子が楽しめるのは季節が限定されるので、希少価値あり、である。
 焼き物にするときは、にじみ出る汁が実に美味なので、貝付きのものを焼くか、剥きホタテの場合は、貝殻に乗せて焼くといい。味付けは好みで、バターやしょうゆをたらしてもいいし、何も加えなくても、だしが効いたシンプルながら、実にこくのある味となる。コツは焼き過ぎないことで、弱火で軽く火が通ったくらいで味わうのがいい。生魚は強火で焼くのが鉄則だが、生貝にそれは当てはまらない。
 煮ものにしても当然美味だが、鍋に入れても素晴らしいダシが出る。また、間引きの段階で出る稚貝を、みそ汁や吸い物にするのも最高である。また、稚貝を酒蒸しやバター焼きというのも一考である。
 もし、刺し身用として買ったものが余り、翌日に持ち越してしまった場合は、私は炒め物に活用することが多い。焼きそばや焼きうどんの具にするのもよし、ありあわせの野菜と炒めてシーフード炒めとするもよし。とにかく、これほど用途多様な魚貝類は、そうはあるまい。
 先にも述べたように、北海道では大衆的なものなので、一部の飲食店や宿泊施設で「ホタテ尽くし」というようなコースもあるようだが、こちらに住むものにとっては、敢えてそうまでして味わうこともなかろう、というのが正直なところである。特に気取ったりしなくても、日常的に北の食卓を飾り、しかも美味な貝、それがホタテなのである。(完)



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 旅人コラム

 北海道、新競争時代へ

 四方を海に囲まれた北海道は、現在でこそ青函トンネルで本州と陸続きにはなっているが、同トンネルは鉄道専用であり、自動車が陸路で往来することは叶わない。その点が、九州、四国とは大きな違いで、いわば北海道は、日本の巨大なる孤島なのである。
 その、本州と北海道間の旅客シュアは、以前の小欄でも触れた通り、航空機が他を凌駕しているが、貨物輸送となると、大量輸送に不向きの航空機は大きくシェアを落とし、トラック輸送全盛の現代では、車両をそのまま搭載できるフェリーが大きな比率を占めるようになる。とはいいつつも、JR貨物も青函トンネルを介した本北間の高速貨物列車には力を入れており、トンネル開業以来、シュアを拡大しつつあったのだが、今年に入っての有珠山噴火による室蘭本線の長期の不通により、他の輸送機関にシフトしてしまった顧客をどれだけ取り戻せるかが、今後の課題であろう。一方のフェリー業界も、超高速の貨物フェリーを建造するなどして所要時間短縮を推し進めており、陸対海の競争は、これからも目が離せまい。
 一方で、これまでシュアを分け合っていた感のあるフェリー業界内でも、競争が勃発している。一昨年、日本海航路に大きなシュアを持つ新日本海フェリーが、苫小牧東港から秋田、新潟、敦賀を結ぶ新航路を就航させた。それに伴い、小樽から新潟、敦賀を結んでいた航路は減便となったのだが、太平洋側と日本海側を結ぶ新航路の就航は、既存の他社航路に影響を与えたと考えられる。
 フェリー業界最大手の東日本フェリーは、室蘭と岩内から新潟県の直江津港を結び、週6便を就航させていたが、この前の冬より、岩内発着の3便を当分の間休航とし、近海郵船フェリーも、東京〜釧路航路から撤退してしまった。前者の背景には、冬季間低気圧の影響で、室蘭港への代替着港が後を断たなかったということもあろうが、休航分がまるまる減便となったことを考えれば、新日本海フェリーによる新航路就航の影響が限りなく大きかったという解釈ができよう。
 さらに、これに関連してとは断言できないが、運賃での競争も勃発した。日本海航路に比べて割高な運賃設定だった太平洋航路に於いて、一昨年、東日本フェリーの室蘭〜大洗航路では、就航15周年記念を銘打ち、旅客ならびに乗用車航送運賃のおよそ50%という大幅割引を期間限定で導入した。今年に入ってからも、新造船就航記念を銘打ち、同様の割引を継続している。新造船とはいえ、それは休航になった岩内〜直江津航路に就航していたものを転用したもので、この航路のために就航した船ではない。勘ぐれば、こじつけとの印象も否めなくはないが、名目は何であれ大幅割引をぶつけざるを得ない、という背景が見え隠れする。
 同じ東日本フェリーでは、得意分野(航路)に特化するということも行われている。太平洋フェリーと競合する苫小牧〜仙台航路を休航とし、余剰船で“ドル箱”の苫小牧〜八戸航路を一往復増便した。業界最大手をしてこういう状況であるから、フェリー業界も、新たな競争時代に入ったと言えようか。
 一方で空の旅客運賃にも、価格自由化の影響がはっきりと現れた。東京〜札幌間通年一万六千円の格安運賃でスタートしたAIR−DOこと北海道国際航空に対し、大手三社は、特定便割引で、同等かそれを下回る運賃をぶつけてきた。結果は火を見るより明らかで、 AIR−DOの搭乗率は低下の一途を辿り、結果この9月より通常期一万八千円、繁忙期二万円へと値上げせざるを得なくなった。資本主義下の価格自由競争の原則、と言ってしまえばそれまでだが、法による規制で新規参入が認められていなかった時代には三社で高値安定の運賃を長く続け、弱小の新規参入が、身を削るような企業努力をもって安価で参入した途端、我もとばかりに値下げをするというのは、利用者を馬鹿にしてはいまいか。さらには、新規参入のない地方空港発着便では、札幌便のような大幅割引はほとんどなく、地方空港の利用者にとっても、同様に納得の出来ない話ではないだろうか。
 AIR−DOでは二号機を導入し、ビジネス客にも利用しやすいダイヤを組むとともに、一回あたりの運賃が一万六千円となる回数券を発売し、これまでは行っていなかった学割を導入するなど、大手の圧力に負けじと企業努力をしている。飛行機の旅とは縁のない筆者であるが、道民の一人として、これからもAIR−DOを応援していきたいと思う。
 そんな競争原理下で、JRだけはややカヤの外、という印象は否めまい。本州と北海道を結ぶ寝台特急“北斗星”“カシオペア”“トワイライト”は堅調のようだが、航空機から旅客を奪うほどの勢いはない。運賃面でも、往復周遊タイプの割安な企画切符こそあるが、通常の利用での割引は皆無である。“北斗星”を例に取るなら、閑散期平日のB寝台は乗車率五割を割り込むこともしばしばのようで、デビュー当時の賑わいはいずこ、といった感さえある。JRグループは、航空会社なみ季節割引運賃や、マイレージ制度の導入を真剣に考える時期に来ているのではなかろうか。
 筆者の場合、時間の制約のない旅が大半ゆえ、札幌から横浜、あるいは横浜から札幌への移動には、利用期間にあたれば青春18きっぷ、それにあたらない時には高速バスとフェリー、という手段が一般化している。JRに割引制度が導入されれば、事情は変化するかもしれないが…
 ともあれ、海上と空の上での競争激化で、安価での移動ができることは歓迎である。JRも今以上に、企画切符や割引運賃に力を入れてもらえたら、と願わずにはいられないこの頃である。(完)



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 さて、今回の旅人通信、いかがでしたか?もっと早くにお届けしたかったのですが、6月早々から宅配業務に従事することになり、しかも今期は、かつて担当した山鼻東エリアを、アルバイトを使わずに一人で切り盛りすることとなったため、家と職場を往復するのみに近い日々が続いたため、脱稿が夏も終わる頃にずれ込んでしまったことを、お詫びいたします。
 8月30日で仕事の方は一区切りとなったので、久々に、青春18きっぷを使って旅に出ようと思っています。それについては、次号で触れられれば、と思っております。(連載 サッポロ・タウンハイクは、取材の都合上休載とさせていただきます。次号をご期待ください)
 それではまた、次号にて…



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