札幌発旅人通信 2000年秋 第八号


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 9月半ばまで続いていた残暑ももはやウソのように、北海道は、まさに秋真っ盛り。北の季節感は、やはり正直なものです。
 9月22日から、この秋の旅第一弾として、大雪高原を振り出しに十勝、日高と気まぐれに走ってきました。早朝に札幌を出発し、層雲峡を経て大雪高原温泉へ。ここが、高原沼めぐりの拠点で、ネイチャーセンターで登山者名簿に記入し、レンジャーからコースと注意事項の説明を受け、出発。一帯は、国立公園内の特別保護地域であるとともにヒグマの生息地でもあり、この日も沼めぐりの通称「右回りコース」は、ヒグマの目撃情報があったために通行禁止。そのため、左回りコースを辿ることに。
 残暑で紅葉は全般に遅れがちで、麓ではまだ色付いていなかったものの、大雪山系白雲岳の頂上直下から下にかけて伸びる赤と黄の帯は、まさに目を奪われんばかり。眺望としては、もっとも奥に位置する高原沼より、そこからやや下った式部沼からのものが素晴らしかったように思います。晴天にも恵まれ、実に快適かつ素晴らしい景勝の山歩きを楽しめたのでした。しかし、数年前までは知る人ぞ知る存在だったここも、年々知名度がアップしているようで、平日ながらも人が多く、近場からと思える小学校の遠足一同が騒がしかったのはご愛敬としても、驚くべきことにここでの散策を組み込んだバスツアーまでが乗り入れており、この分だと近い将来、国道から高原温泉に至る未舗装の道路も舗装され、大雪山を望むありふれた温泉観光地に成り下がってしまうでは…とも思われれます。ここを訪れるなら、できるだけ早めの方がいいでしょう。今期は高地での紅葉ももはや終わり、登山道と高原温泉も間もなく閉鎖されてしまいますが…
 第二弾は、9月29日から10月1日にかけて、道央から道北にかけてを走りました。この方面では、音威子府村の「天塩川温泉」が楽しみ。露天風呂から眺める天塩川の眺めは、絶景という表現は当てはまらないものの、道北らしい雄大さを感じさせ、気付くと時の経つのも忘れるほど、その風景と一体化した自分がいたりするものです。無料の休憩室も備え、それでいて日帰り利用は二百円という安さ。ここについては、いずれ「北の湯巡り」のコーナーでも取り上げたいと思っています。
 音威子府からは稚内を経て、利尻、礼文を右手に見送ってサロベツ原野を南下。そして天塩町で、今年できたばかりの「天塩温泉 夕映(ゆうばえ)」に立ち寄り。別棟の宿泊施設を擁する極めて立派な施設ながら、日帰り利用はやや抑え気味とも言える五百円。フリースペース、浴室ともに広々としており、露天風呂からは鏡沼と日本海が見える…はずだったのですが、日没後で残念ながら景色は楽しめず。秋から冬にかけての旅は、日没の早さとの闘いも忘れてはなりません。しかし、かなりしょっぱくて温まるお湯もなかなかよく、道北に新たな名湯誕生、と記しておきましょう。このほか苫前町にも新しい温泉ができており、そちらにもいずれ足を運ばなければ、と思っています。
 第三弾は、道東へ。雄武町の温泉に入り、その名の通りの「日の出岬」からの日昇を望み、サロマ湖では自前MTBにて走ること頻り。花の季節に比べて人は少なく、起伏にも乏しいところを走るのは、軟弱旅人になりつつある私にも、極めて楽な道程。その夜は、網走の馴染みの焼肉店で栄養補給… それからは天候にいま一つ恵まれず、網走と小清水温泉を行ったり来たりして数日を過ごし、いよいよ知床へ。知床峠を越えて向かったのは、道道知床公園羅臼線の行き止まりに近い、相泊温泉。晴れていれば国後島を望む海岸に湧くこの温泉は、数年前に訪れた折は、低気圧通過直後で、浴槽は打ち上げられた石で埋まっており、入浴は叶わず終い。しかしこの秋は、温泉は見事に復活しており、ややしょっぱみを帯びた湯の満ちた木製の湯舟に、浸ることができたのです。
 しかし、海岸の侵食は激しく、波打ち際に投じられたテトラポットが海面を望むことを不可能にしていました。景観は台無しですが、テトラを入れなければ、海岸は削られ続け、この温泉も消滅していたものと想像されます。海岸浸食の実情は、知床の自然海岸にまで及んでいるという現実を、目の当たりにさせられたのでした。
 その日は弟子屈まで走り、摩周湖第一展望台で車中泊。到着した時こそ雨模様で、湖面は霧に覆われていたものの、夜半には晴れ渡った星空となり、翌朝も雲も霧も一つもない快晴。北海道を旅し始めてそろそろ20年になりますが、摩周湖が霧で見られなかったことは、その間でたった一度しかありません。訪れる度に霧だった、という人もいるようですが、全く信じられません。是非もう一度、完全に霧に覆われた摩周湖を、目の当たりにしてみたいものです…
 旅の終わりには、雨竜沼湿原に立ち寄りました。雨竜市街から車で30分ほど入った南暑寒荘駐車場から1時間ほど山道を歩くと、不意に高層湿原が目前に展開します。すでに季節外れで、木道架け替えの工事の人々以外、出会う人もなく、山懐に抱かれた湿原の神秘性を思う存分に堪能できました。札幌からさして遠くないところに、こんな場所があるとは意外で、これまで訪ねる機会がなかったことは残念です。次の初夏の頃、湿性植物の咲き乱れる姿を愛でに訪れたいと思いました。人が多いであろうことは、覚悟しなければならないでしょうが…
 といったところがこの秋の私の旅でした。では、そろそろ本文に移るとしましょうか…



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 連載 北の湯めぐり


 第八回 十勝の山、海、街の温泉を訪ねて

 十勝平野一帯は、地図を開けばその?Bマークの多さからも分かる通り、極めて温泉の多いところである。温泉街としては十勝川温泉(音更町)が著名であり、支庁所在地の帯広市には温泉街こそないが、市内いたるところに温泉銭湯があり、市民はごく気軽に温泉浴を楽しんでいる。さらに視野を広げれば、山あい、海岸、そして市街地、郊外にと、当たり前のように温泉の一軒宿や銭湯、公営温泉が点在している。全道屈指の、温泉高密度地帯と言えようか。
 今回は、そんな温泉密集地に住む人々を羨みつつ、山、海、街それぞれに絞り、三軒の温泉を紹介しようと思う。

 まず、山である。十勝平野の北西に位置する新得町は、蕎麦の産地として知られるほか、かつては北海道きっての鉄道の難所と言われた、根室本線の旧狩勝峠の十勝側の前線基地として、その名を全国の鉄道ファンに轟かせたところでもある。その町域は南北に細長く、市街地はほぼ南端に位置し、一方の北端は、“北海道の屋根”大雪山系にまで食い込んでいる。十勝支庁にありながら上川郡を名乗っているのは、それに起因してのことであろうか。
 その新得市街から十勝川沿いに北へと伸びる道道をひたすら走ると、やがて人家は途絶えて十勝川本流とも別れ、道は山あいのダートの細道となる。新得市街からおよそ60キロ進んだあたりで、こつ然と鉄筋四階建ての建物が現れる。トムラウシ温泉の一軒宿、「国民宿舎東大雪荘」である。自然噴出する温泉の成分が、長い月日をかけてつくりあげた噴石塔が、まず出迎えてくれる。
 町営の施設なので、日帰り入浴三百五十円と格安なのは嬉しい。それでいて、施設内容はきわめて充実しており、内風呂は広々とした浴槽と洗い場、サウナ、打たせ湯を備え、渓流を見下ろす露天風呂もなかなかの広さである。この露天風呂、内寄りの高温槽と外寄りの低温槽に別れており、高温槽の方は仕切り部分が細くつながった“半混浴”となっている。日中、そこに姿を現す女性はさすがに見受けられなかったが、夜間、人が少なければ、カップルで訪れた客などは、そこでいいムードになっているのかもしれない…
 泉質は含硫黄―ナトリウム・炭酸水素塩泉で、源泉温度93℃という“超”高温泉である。源泉温度が低く、かつ湧出量も少ない温泉だと、冬期間、露天風呂の温度が下がって入れなくなるようなことがままあるが、ここではその心配はあるまい。館内には日帰り客用の休憩室も用意されているほか、食堂も日中から日帰り客相手に営業してる。何しろ街からは遥かに離れた一軒宿なので、当然と言えば当然なのかもしれない。宿泊の方は、一泊二食付き六千六百四十円からで、こちらも手頃な料金である。
 ここに路線バスが通うのは7、8月だけで、その季節には本州からの登山客も大く訪れるというが、それ以外の時期はマイカーしか交通手段がなく、道内からの客が主力になるという。夜の長くなるこれからの季節、カップルでしっぽりと夜長を過ごすのには打ってつけの宿とも思え、特に、人目を忍ぶ不倫カップルにはこのうえないと…待て待て、一緒に行く相手もいない私がこんなことを書き立てれば、もてない男のぼやきにしか聞こえそうもないから、このくらいでやめにしておこう。
 先にも述べたように、ここは市街地から遥かに離れた山中、人家の途絶えたダート道の果てにあるのだが、驚くべきことに通年営業しているという。常識で考えれば、とても除雪車が入れるような道とは思えず、新得町の入れ込みが強く伺える。しかし冬ともなれば、そんな険路を越えて訪れる客は少ないはずで、ますます不倫カップル向けの宿だと…また話がそっちへ行ったか。どうにもぼやきが多くなる、秋この頃である。
 なお、JR新得駅前には、ここの温泉をローリーで毎日輸送して使用しているという「新得サウナ浴場」なる銭湯もあり、トムラウシまではとても足を運べない、という向きにはお勧めである。但し道路事情の悪化する冬季は、水道水を使ったただの銭湯となってしまうので、ご注意を。

 次は海に行こう。十勝管内は、釧路支庁との境の浦幌町から、襟裳岬にあと30キロまで迫る広尾町にかけて、実に100キロ近い海岸線を有している。大樹町は、その南端の広尾町の北に位置するが、町域は海岸線を縦棒にしたコの字のような姿をしており、西端部から南端部にかけては日高山脈の尾根に位置している。基幹産業は酪農で、先だって日本中を震撼させた雪印乳業の低脂肪乳による食中毒事件では、その原因となった脱脂粉乳の製造元が雪印大樹工場だったとして、不名誉なかたちで町の名を全国に知られることとなった。
 北東部の海岸には海跡湖沼が点在し、著名な網走やサロベツなどと比べると規模は小さいながら湿性の原生花園もあり、そんな一角に町営の「晩成温泉」がある。ロードマップで見ると、実に寂しげなところにポツンとあるように思え、事実大樹市街からも20キロ以上離れているのだが、周囲はキャンプ場やフィールドアスレチックなども整備されており、垢抜けた印象なのが意外である。
 入浴料は三百五十円で、近年建て替えられたという浴室は広々としており、ほうじ茶のような褐色をしたナトリウムー塩化物泉の湯が特徴である。源泉温度20.9℃のものを浴用加熱して使用しており、水平線を見ながら入れる大浴槽のほか、ジェットバスや打たせ湯、サウナも備えている。洗い場にはシャンプーとボディソープもあり、充実の内容である。残念なのは、海を見渡す最高のロケーションでありながら、露天風呂がないことである。しかし、浴室から外に通じるちょっとしたテラス?のようなスペースがあり、これは、今後の露天風呂設置への布石と見ることもできる。近い将来の、露天風呂増設に期待したいところである。
 館内には無料休憩室と食堂があるが、休憩室は休日ともなれば座る場所がなくなるほどの賑わいである。聞けば、十勝管内はもとより釧路方面からのリピーターもかなりいるという。路線バスも通わず、アプローチはお世辞にも良いとは言えない場所であるが、お湯とアメニティの良さ、そして茫漠とした太平洋を望むという立地は、多くの人を引きつけてやまないのである。食堂には、手頃な価格のメニューが各種揃っており、こちらも賑わいを見せている。
 このほか、別棟の宿泊施設「原生花園」もあり、こちらも素泊二千五百円からと破格での宿泊が可能である。宿泊者は温泉入浴が無料となるのは当然だが、食事付きの宿泊も可能である。人里離れた海岸の宿は、やはりカップル、特に不倫にはお似合いのようで…何で話がそっちへ行くのかな…?これもやはり、人恋しくなる秋のせい?

 そして、街へと戻るとしよう。十勝管内一の街といえば、人口十七万人を誇る帯広市である。最初にも述べたように帯広市内にも多くの温泉浴場があり、その多くは簡単な休憩場所やカウンタースタイルのドリンクコーナーこそは備えてはいるが、これまでに訪ねた限りでは“温泉銭湯”の域を脱する施設には巡りあっていないのが現状である。
 ところが数年前、何気なく足を運んだ隣町で、ものすごい温泉を発見してしまった。隣町とは、すぐ西隣にある芽室町で、人口は一万七千人、農業と農産加工工業を主幹とする町である。町内には幾つかの?Bマークが描かれているが、私が訪ねたのは、市街地にあり、JR芽室駅からも近い「スーパー銭湯 鳳の舞」であった。
 近年、スーパー銭湯が全国的にブームである。これは、露天風呂やサウナ、休憩室、軽食コーナーなどを持ち、シャンプーや石鹸類も備えられていて、さらに追加料金を支払えばタオルやガウンまでもが借りられ、手ぶらでやって来ても大丈夫、というのが売りの、いわば新時代銭湯とも言うべき施設のことである。しかし、本州のこの手の施設では、公衆浴場料金よりも割高の入浴料(六百円〜千円くらい)が設定されているのが一般的で、銭湯と、町場のサウナの中間的存在ととらえるべき存在なのが正直なところで、そうそう足げよく通うわけには行くまい。
 ところがこの「鳳の舞」は、スーパー銭湯を名乗りながらも料金は公衆浴場料金の三百六十円。それでいて、内容はその名の通り“スーパー”なのだから、恐れ入ってしまう。
 建物一階は下足室と機械室に充てられており、階段かエレベーターで二階に上がったところに、番台ならぬフロントがあり、券売機で入浴券を購入して手渡すようになっている。ここでももちろん、料金を追加すればタオル一式とガウンが借りられるが、それを利用している人はあまり見受けられない。観光客とは無縁の土地柄であり、訪れるのは町内か隣接市町村の客ばかりとあっては、これもいたしかたのないことであろう。
 脱衣室にはコインリターン式のロッカーが並んでいるほか、籠の並ぶ棚もあり、貴重品のみを預け入れられる小型のロッカーも置かれている。浴室へ進むと、大浴槽のほかに電気風呂や高温浴槽、ジェットバスなども設けられているほか、露天風呂もある。この露天風呂、場所が市街地だけに、民家の裏庭を覗き込んでしまうのはご愛敬だが、天気がよければ日高連峰を望むことができ、「連峰の湯」と名付けられている。これらの浴槽に溢れる湯は、泉質分類上は単純泉だが、茶褐色をした十勝独特のモール泉である。モール泉とは、太古の植物の死骸が含まれる温泉のことで、世界でも数カ所でしか湧出例がない希少なものだという。そのお湯をこの施設では、一切循環濾過したりはせず、使い捨てているという。温泉ブームの中、浴槽に入れた源泉を濾過して再利用している温泉施設も少なくないというのは、残念な話である。ここのように「お湯の使い捨て」を明言する施設が、どんどん増えることを願ってやまない。
 サウナは広々としており、一度に十人以上は入れそうである。タオルは敷かれておらず、有料のサウナマットを借りるか、乾いたタオルを持参することになっている。洗い場には石鹸とシャンプーを備えているほか、脱衣所の洗面台にはローション、リキッド、トニックといったコスメ類も置かれている。入浴料三百六十円でこの充実ぶりは、全国でも類を見まい。さらには、年中無休で朝6時から夜11時までという長い営業時間も特筆もので、まさに“スーパー尽くし”の施設である。
 湯上がりには、和室と洋室の休憩室にカウンターバーまであり、ドリンク類のみならず簡単な食事までもが用意されている。こんな銭湯が地元にあったなら、おそらくは週一度以上のペースで通うこと請け合いで、つくづく、芽室町の人々が羨ましい限りである。

 以上、十勝の山、海、街の温泉を駆け足で巡った感想はいかに?私的には、石狩管内にも温泉施設は数多くあり、日帰り温泉施設に於いては、石狩も十勝に負けてはいないと思う。しかし、札幌市内に目を向けると、温泉銭湯は幾つかあれど、残念ながら「鳳の舞」に対抗しうる施設は皆無なのが現状である。一方で郊外地区には、スーパー銭湯がこの数年で幾つか開業した。しかしそれらはあくまで銭湯であり温泉ではないので、今後の“天然温泉”を擁するスーパー銭湯誕生に期待したいところである。(完)

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 グルメ情報

 この季節ならではの「本物の柳葉魚(ししゃも)」を味わう

 北海道に於いて、秋を代表する味覚は数多いが、本物のししゃもは、そんな中でも漁期の秋に当たるほんのひと時期にしか味わうことができない“レア”な魚である。
 「本物」とはいかに?実は、日頃スーパーなどの魚売り場に並んで「シシャモ」と称され販売されているものは、九割九分の確率で「代用シシャモ」である。「代用シシャモ」とは、北海道の胆振、日高から釧路地方にかけての太平洋岸で獲れるししゃもと、科目上は同じながら、主に北欧の沿岸地域で獲れる「カペリン」なる魚である。科目が同一ならば、食味も同じなのでは、と考える向きもあろうが、魚貝類のみならず、生物全般に於ける科目分類というのは、人間が便宜的に決めたものに過ぎない。その上で仮に同じ科目に分類されたとして、その味わいまでもが同一とは限るまい。分かりやすい例を上げれば、サケ科のサケ目である各種の鮭は、キングサーモン、紅鮭、白鮭からカラフト鱒、サクラ鱒と多様に及ぶが、これらの食味を同一と言い切る人がいたら、その人は表彰に値する恐るべき味覚音痴である。「本ししゃも」と「代用シシャモ」は、姿こそ似てはいるが、味の点では大きく差のあるものである。
 とは言うものの、本州方面の人々は、「本物」を口にする機会は稀であろう。何しろ北海道に於いても、本物は漁期にあたる10月上旬から11月あたま位までしか店頭には並ばない上、価格も「代用」の塩干ものがワンパック百円前後なのに対し、「本物」はオスが十尾前後で三百〜五百円位、子持ちのメスはその百円ないし二百円高と、大衆魚とは言えないほどの価格である。水揚げされた大半は、高級料亭や割烹に流れてしまうものと推測される。
 実際に「本物」を口に含むと、身の味が濃い。これは、オスの方がよりハッキリと味わえる。メスの場合、子の一粒一粒が「代用」よりも大きく、歯応えが違う。外見的には、「代用」が銀色なのに対し、「本物」は金色がかっているのも大きな違いである。
 憂うべきなのは、「代用品」が、あたかも本物のような顔をして流通していることであろう。製造物責任法の流れで、生鮮物も販売の際に産地を明示することが義務化されて久しいが、加工品の場合その限りではないようで、塩干物となって流通するのが一般的なシシャモについては、産地を明示して販売されているのは稀である。これは、アワビやサザエに類似した海外産の貝の刺身、或いは空輸で運ばれてきた生ウニが、産国を明示して流通しているのと比べ、著しく不公平である。「本ししゃも」が資源枯渇の一途にあり、漁期、流通量ともに限られてしまっているのはいたしかたないが、「代用品」はあくまで代用品を名乗って販売されるべきであろう。それが販売する側の、消費者に対しての「良心」ではないのだろうか…
 先にも述べたように、秋の一時期に限って、北海道内では小売店にも「本ししゃも」が出回り、庶民もその味を楽しむことができるのは救いである。このほか、「ししゃもの町」として知られる胆振管内鵡川町では、この季節、「ししゃも寿司」が味わえる。こればかりは、当地に足を運ぶ以外にない。本州方面では、高級料亭、割烹は私の守備範囲外だが、北海道を本拠とする刺身居酒屋「魚や一丁」チェーンでなら、代用ではない本物のししゃも焼きが味わえる。本州の方々も是非一度、本物を味わって頂きたいものである…(完)


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 連載 サッポロ・タウンハイク

 第一回 札幌駅前から中心街を歩く(中編)

 時計台の南向かいには、19階建ての札幌市役所がそびえている。観光客には無縁とも思えるところだが、実は知られざる穴場なので、紹介しておきたい。 エレベーターで最上階まで上がると、建物の北側と南側がそれぞれ展望回廊となっており、日中は開放されており、北は石狩の海岸線と北東にそびえる暑寒の山々、南は支笏洞爺に連なる山々と、南東の夕張山地までを望むことができる。積雪期は閉鎖となってしまうが、同じフロアにはドリンク類と軽食が楽しめるパーラーがあり、こちらは季節に関係なく営業している。また、一つ下のフロアには、本格的メニューが手頃な価格で楽しめるレストランもあり、展望を楽しみながらの食事ができる。さらには、地階の職員食堂も一般利用が可能で、格安なメニューが揃っている。筆者も旅行で北海道を訪れていた頃、何かと利用したものである。
 市役所の南は大通公園で、すぐ東斜め向かいに、時計台と並ぶ札幌のシンボル、テレビ塔がある。反対の西に目を転じると、西3丁目から4丁目にかけては、北海道金融の中枢地帯の趣がある。西3丁目と4丁目を隔てる四丁目通、通称駅前通と大通3丁目の北側角には、旧北海道拓殖銀行本店、現在の北洋銀行大通支店の建物が構えている。そこから大通を隔てた南側の2丁目寄りの角には、北洋銀行本店があり、旧拓銀本店の斜め向かいの4丁目角には、北海道銀行本店、その西隣には札幌銀行本店が店舗を構えている。かつては道内の主力銀行四行が、この大通3、4丁目で対峙していた格好であったが、平成9年秋、拓銀は経営破綻し、翌年、北洋銀行に営業譲渡、創業百年を目前に消滅したことは記憶に新しい。
 道内銀行最大手、しかも都市銀行である拓銀破綻という事態を迎え、水面下では、道内第二位行であった道銀こと北海道銀行への営業譲渡が最有力と考えられたが、それまでの合併合意〜延期という両行間の感情のもつれから、結果的には第三位行だった北洋銀行への営業譲渡となった。その結果北洋銀は、道内行で預金量第一位となり、さらに札銀とも包括的業務提携を打ち出し、道銀を尻目に、道内トップバンクとしての足元を固めつつあるように見える。
 しかし、その内情は楽観視できるようなものではない。営業譲渡で預金と債権こそ増えたものの、いわゆる“水太り”体質では利益はなかなか上がらない。事実、この春の決算でも、業務純益では北洋は預金量5兆円に対して180億円だったのに対し、道銀は預金量3兆3億円ながら、北洋の倍近い370億円を計上している。さらに、ここ大通で見られるような店舗の重複は全道各地で見られ、これらの統廃合は今後の大きな課題である。
 一方の道銀は、“わが道を行く”の感があるが、徹底したリストラの結果が高い利潤を産む“筋肉質”の体質として顕れつつあることは、北洋の倍近い業務純益からも明らかである。さらに、東洋経済新報社刊「金融ビジネス10月号」での今春決済期に於ける銀行総合力ランキングでは、75位の北洋、45位の札銀を大きく引き離し、大手都市行や主要地銀と肩を並べる23位にランキングされた。拓銀との合併破談以来、彩色のなかった道銀にとって、この結果はしてやったり、といったところであろうか。
 大通から南側は、商業地帯の体を成している。大通公園の西2丁目に面した北向きには、道内最大手のデパート、丸井今井本店が構えている。バブル期の多角経営戦略が裏目に出て多額の負債を抱え、一時は本州系デパートへの身売りも取り沙太されたが不調に終わり、当面は道内系金融機関数行が運転資金を融資しつつ経営再建の道を進むこととなり、拓銀に次ぐ道内の大型破綻の危機は遠のいた。
なお、この丸井今井は、首都圏を中心に展開している丸井デパートとは、資本関係を含めて全く無縁の別会社である。
 大通から南に向かっての駅前通には、三越、パルコといった本州系デパートのほか、4丁目プラザ、コスモ、ピブォ、アルシュといった大型ファッションビルに交じり、様々なショップや飲食店が立ち並ぶ。さらにこの地下には、駅前通に並行するポールタウン、大通公園と並行するオーロラタウンの二つの地下街が張り巡らされている。冬の長い北国に於いて、地下街の存在は切っても切れぬものである。しかしながら、北海道で本格的な地下街がある街は、札幌が唯一である。
 駅前通と南1条通の交差点は、北海道では数少ないスクランブル交差点となっている。この西側に市電の始発駅、西4丁目駅がある。この通称「電車通」の西6丁目には、近年、東急ハンズが進出した。これまで、どちらかというとファッション関係のテナントビルが主勢だったこの一帯に、新しい風を吹き込んだ感がある。
 南1条通の3丁目側は、三越とパルコを振り出しに、書籍販売の大型店丸善や文具の大型店セントラル、生活雑貨を主体とした池内百貨店などが続く。2丁目の南向きには丸井今井の一条館、1丁目北西角には長崎屋ビッグオフが店舗を構える。会社更生法を申請し、経営再建中の同社だが、この店舗は今後も存続するという。昭和年間、長崎屋札幌店とて営業していた頃は、中心街の一等地にありながら閑古鳥が鳴いていたのだが、ディスカウントショップのビッグオフに衣替えをして以来、大賑わいの店となった。
 そこから南へ下りると、道内系スーパー第一位のラルズプラザ札幌店がある。元は金一舘というデパートだったが、ラルズに吸収合併され、現在に至っている。こことビッグオフは、都心部に残った数少ない庶民向けスーパーでもある。
 南2条と3条の間を、西1丁目から7丁目まで伸びているのが、狸小路商店街である。札幌最古参の商店街として、その名は全国に知れており、1丁目から6丁目までの開閉型のアーケードは、雪国ならではの夏と冬の使い分けを実践しているとも言えよう。しかし、近年のドーナツ化現象による夜間人口の減少により、空き店舗や空き地となっているスペースも目立つ。得意分野での専業、専門化で生き残りを計る店舗がある反面、そういった特色を打ち出せないでいる店舗の今後の生き残りは、厳しいと言わざるを得まい。変わって近頃では、新規の飲食店進出が目立ち、特に6丁目の一角は、新たなラーメン店の激戦区として、観光客の多いラーメン横丁に対し、地元客の集まるラーメン銀座となりつつある。
 総括すれば、何のかんのと言いながら、ここ狸小路は日中にはそれなりの人を集め、賑わいを見せている。およそ人が行き交わなくなり、シャッターを下ろしたままの店が目立つ田舎町のアーケード街を旅先で嫌と言うほど見てきた目には、まだまだここは救われている、との印象が強いのも事実である。
(以下次号)


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 旅人コラム

 冬支度の季節を迎えて

 10月も、早いものでもはや終わりを迎えてしまった。今年は例年に比べて暖かく、10月に入ってからも秋らしい冷え込みは少なく、本格的な冬支度にはまだ至らないでいるが、道内の山々ではもはや雪の季節を迎えており、冬は確実に近付きつつある。
 しかし、秋を迎えて冬の足音が間近に迫りつつある遥か以前から、北海道に於ける冬支度の“前哨戦”は始まっているのである。それは、雪どけの季節を迎えた頃、まず、融雪漕とロードヒーティングのテレビ、ラジオCMが始まることに遡る。
 分かりきった話ではあるが、地下に埋設する融雪漕やロードヒーティングは、雪が積もる前に工事を終えなければ話にならない。当然、融雪機器の工事は夏場にピークを迎えるのだが、CMとしてのインパクトは、暑い夏になってからよりも、まだ冬の余韻が残っている時期がより効果的であろう。よって、桜が開花するかしないかの時季に、
「…××のロードヒーティング(融雪漕)で、今年の冬は安心…」
といったCMがオンエアーとなるのである。
 その後の春から初夏にかけては、北海道中が短い夏を謳歌する季節ということもあるのか、融雪機器以外の冬物の目立ったコマーシャルは気にならないが、8月に入った途端、暖房機とスタッドレス・タイヤのCMが怒濤のように流れ出す。冬物CMの期間を制限する規制事項があるとは聞かないから、8月からというのが業界での申し合わせとなっているのであろうが、まだまだ残暑の厳しい折に、
「…直噴バーナー採用で、今年の冬はポカポカ…」
などと言いつつ毛皮をまとったタレントが登場したり、一面の氷原を走る車が映し出されるや急制動をかけ、
「…××ゴム採用で、雪と氷をスパイク…」
といった映像が流れたりすると、正直、
「まだ夏なんだから、やめてくれ…!」
と叫びたくなる。
 本州から北海道に移り住んで満六年、北海道の夏は短く、一足飛びで秋、そして冬へと駆け抜けることは、身をもって実感している。だからこそ夏の最中、いたずらに冬へいざなうようなCMには、いまだ嫌悪感を覚えるのである。
 しかし冷静な目で見れば、暖房機メーカー、そしてタイヤメーカーにも、戦略としての8月からの宣伝の必要性というのが見え隠れしている。以下は筆者の推論であるが、大筋で間違ってはいないであろう。
 まず暖房機メーカーであるが、暖房機に於いては、融雪機器ほど大かがりな設置工事ではないものの、FF式の機器となれば、取り換えで半日、新設となれば丸一日は工事に必要とされよう。つまり、暖房が本格的に必要となった時季に売り込みをかけても、もはや手遅れなのである。ここで言う時季とは、冬のボーナス支給時ともバッティングしている。つまり、冬のボーナス時季は、簡便なポータブル機器は別として、工事を必要とする中大型の暖房機は、すでに商機を逸しているのである。
 然らば、夏のボーナス支給から間もない8月に宣伝を開始するのは、メーカーにとって謂わば必然なのである。さらに、一般家庭での冷房機器の普及率が本州に比べはるかに低い道内では、窓を開け放てる夏場が、家屋内の工事には都合が良くもある。おまけに道内系企業ではボーナス支給が8月に入ってからというところも少なくなく、前の冬から暖房機器の買い替えを考えていた家庭にとって、この“8月攻勢”は効果的である。もちろんホームセンターや大型スーパーの家庭用品売り場でも、数週間のタイムラグこそあるが、8月中には暖房機器が売り場に並び、「早期設置工事費無料」をうたって客の獲得をはかる店舗も少なからずある。こうして、筆者のように季節感云々を唱える者などカヤの外で、北海道の冬物商戦は進行して行くのである。
 これがタイヤメーカーの場合となると、ボーナス支給時期と絡めることは難しい。冬のボーナス時期に冬タイヤに交換するのでは手遅れであることは言うまでもないが、かといって夏のボーナス時期直後では、CMこそ流れてはいるが、まだ商品が市場には満足に出回っていないのが実情である。北海道に於ける一般的な冬タイヤへの交換時期は、10月下旬から11月半ばが平均であるというが、これが雪の少ない道南から日高、釧路、根室にかけての太平洋岸地域だと、12月上旬にまでずれ込むという。どのみち冬のボーナスを待っていたのでは間に合わなくなるし、頻繁に峠越えの長距離を走るドライバーは、より早目のタイヤ交換が必須である。
 つまりメーカーとしては、履き替えまでの限られた期間に、いかに宣伝をして自社の製品をより強く印象付けるかにかかっているのである。実際、スタッドレス・タイヤの買い替えを考えている人間なら、否応なくタイヤのCMは気にかかるし、最終的には小売店での価格が選択肢の中では大きな比重を占めようが、事と次第によっては生命にかかわる選択でもあるのだから、性能面の比重もないがしろにはできまい。
 数年前までは、大手カー用品店チェーンでは、冬タイヤの“早期割引”販売が盛んに行われていたが、このところ“割引”を前面に出した宣伝は聞かれなくなったように思う。勘ぐれば、それまでは前年の売れ残り在庫を廉価で売っていれはよかったものが、ここ数年の年を追う毎のタイヤの高性能化で、とても前年の売れ残りなど販売できなくなったということではなかろうか。
 そんなスタッドレス・タイヤの最近のCMを見ると、
「発泡ゴムが、水をはじいて寄せつけない…」
「くるみの粒が、氷に刺さって××効果…」
「ミクロのグラスファイバーピンが、氷に突き刺さって効く…」
「シリカコンパウンド配合で、滑りの元となる水を徹底排除…」
などなど、いかに滑らないかを競うようなものばかりである。
 さらに今年になってあるメーカーは、十万円までの物損事故を補償するという“スリップ補償”を付けたタイヤの販売を開始した。それだけ性能に自信を持った、ということだろうが、私的にはこれには大いに疑問がある。なぜなら、スタッドレスよりも運動性と制動力に優れたスパイクタイヤの時代にも、事故はあったのである。どんなに高性能のタイヤを履いたとして、最終的にそれを扱うのは運転者一人一人であり、冬道でタイヤの性能限界を越えるような運転をすれば、事故は起きて然りである。必要なのは、限界を越えることのないよう、一にも二にも慎重な運転を心掛けること以外にない。つまらぬ補償が、そんな基本事項をないがしろにしてしまわぬか、心配である。
 話を元に戻すと、昨年から今年にかけては、高性能化がほぼ一段落したということか、性能面にプラスして、
「効き持ちいい…」
とか、
「…○×△で、2年目、3年目も変わらない効果」
といった感じで、長持ちすることを強調するメーカーが現れたのが特筆されようか。
 タイヤというものは、夏用冬用を問わず、高性能といわれるものはグリップ力がよいものをさし、それはイコール、ゴムが柔らかいものということになる。つまり高性能なタイヤであるほど、柔らかいイコール摩耗が早いということであり、特に夏タイヤに比べて柔らかいゴムを使用するスタッドレス・タイヤにとって、耐久性はこれまで二の次に置かれていた。ところが近年の技術革新は、そのスタッドレスの寿命さえも伸ばすに至ったのである。むろん、タイヤの寿命は使用ならびに保管状況に因るところが大きいので、一概に何年履けます、といった数字を示すことはできまい。ちなみに筆者の場合、昨年秋に履き替える前のスタッドレスは、新品から実に3シーズン半使用した。半というのは、最初の冬、シーズン途中で履き替えだことによる。正直なところ、昨シーズンもチェーン併用で無理をすれば乗り切れたとは思うが、その前の冬の終わりに縁石にぶつけて一本を駄目にし、五分山の中古品を組み込んで乗り切っていたこともあり、シーズン前に新品四本に履き替えたものである。
 冬場にほとんど車に乗らないというのであれば、それだけタイヤが持っても不思議ではない。ところが筆者の場合、冬ともなれば毎年のように道東や道北方面に、一度ならず二度、三度、多い年はそれ以上の回数、車にて足を運んでいる。それでいて、5年前新品で使い始めたスタッドレスが、現在も夏タイヤの代用として六分ないし七分の山を残して活躍中である。昨年履き替えた新品(一応一冬履いたので、“準”新品というべきかもしれないが…)は、果たしてどれだけ持つのであろうか。かなり確実なのは、タイヤより先に、車本体の方がいってしまうであろうこと。現在走行十四万キロの老骨ADバンは、次はどこがいかれるのやら、と騙し騙し乗っているこの頃なのである。

 さて、前置きが長くなったが、実際の冬支度に話を移そう。本州の方々は、札幌のような都会に住んでいて冬支度もあったものか、と思われるかもしれないが、さもあらず。冬を迎えるにあたってすべきことは、幾つかある。 北海道の一般的な家庭では、暖房器具は据え付けとなっているだろうが、1DKの広いとは言い難い住居に住むとなると、季節で取り外せるものは取り外さざるを得ない。それは即ち暖房器具で、毎年5月半ばを迎えると、幾分であるにせよ部屋が広くなる。しかし、その状態も半年とは続かないのが北海道で、10月ともなれば、暖房が必要な状況となる。今年は、冒頭にも述べたように暖かい日が続いており、現在のところ、ポータブルストーブで凌いではいるが、間もなく煙筒式のポットストーブを設置せねばなるまい。そのストーブ自体の大きさはたいしたものではないが、煙筒が逆L字形に壁に向かって伸びる上、20リッターの灯油タンクを設置しなければならない。夏の間、車庫で眠っていたそれらを、二階の部屋まで運ぶこと自体は、かつて引越業に従事していた筆者にとって、特段苦になることではない。しかし設置の段になると、煙筒からはどうしても煤が落ちるし、タンクと本体をホースで結ぶ際には、少量ではあるが灯油がこぼれてしまう。家事全般の中では掃除があまり好きではない筆者にとって、これらはやや面倒な作業である。
 そして当然の話、燃料となる灯油を購入しなくてはならない。宅配が便利なことは明白だが、スタンドで購入するのと比べ、最大で10円近くかそれ以上の価格差があり、とても利用する気にはなれない。エレベーターなしの4階や5階に住んでいるのならいざしらず、たかが2階で、しかも車を持っているのであるから、横着は禁物である。
 次に、車のタイヤ交換である。本州の人には前もって説明しておかねばなるまいが、北国に於いては、自動車のタイヤは夏用、冬用の2セット、つまり乗用車なら4本×2の8本が必要である。それらをシーズン度にホイールから履き替えるのではたまらないから、それぞれをホイールに組み込んで所有しているのである。
 夏から冬への交換時期は、先にも述べた通りその年の雪の降り具合で変るが、10月下旬ないし11月上旬というのが目安である。正直なところ、本格的な積雪には至らないまでも、11月に入ればいつ雪が降ってもおかしくないのが北海道で、ひとたびまとまった雪に見舞われれば、ガソリンスタンドやカー用品ショップ、自動車販売ディーラーには、タイヤ交換の長蛇の列ができる。筆者の場合、駐車場が車庫というで、仮に雪が降り積もった後でも自前でのタイヤ交換には不自由しないということもあり、ただの一度もタイヤ交換に他人の手を煩わせたことはない。特に体力を要する作業でもなく、金を払って他人に頼むほどのことではない。
 ただ、自前でタイヤ交換をした場合、気になる人には気になるのがホイールバランスである。こればかりは専用の機器に頼らざるを得ず、しかも1本いくらと金までふんだくられる。スタンドやショップには、
「ホイールバランスが狂っていると、轍などでハンドルを取られ、思わぬ事故に発展する場合があります」
などどまことしやかに書かれたポスターなどが貼られ、
「是非とも、タイヤ交換と同時に、ホイールバランスも取られることをお勧めします」
などと結んでいるが、正直ふざけた話である。筆者はこれまで、ただの一度も、ホイールバランスの崩れと思しき原因でハンドルを取られたことなどない。仮に轍にハンドルを取られたとして、立て直す余裕のない運転をしている人間が事故を起こすのであり、そんな輩にバランスもヘチマもあったものではない。ましてや秋と春にタイヤ交換を余儀なくされる北国では、筆者のように毎回自前で交換を済ませている人間は数限りなくおり、或いは交換はスタンドやショップに任せても、バランスは結構、と断っている人間も相当数に上るだろう。そういった人間が全て事故を起こすならば、北国の運転免許人口は、全国比で大幅に少なくなくてはならないはずだが、実際そんな話はついぞ聞かない。確かに、ホイールバランスが原因の事故もあろうが、それはごく一握りであろう。それを一事が万事の如く誇張することを、断固許してはなるまい。

 さて、一人暮らしの筆者にとっては、冬支度といえばそのくらいか。あとは、雪かき用のスコップが駄目になってこの春に捨ててしまったので、ホームセンターでそれを新たに買い求めるくらいであろうか。
 11月が近付くと農村部では、冬用のつけものを漬けるのが風習である。特に、洗われた大根が盛大に軒先に吊されるのは、秋から冬へと移行する季節の風物である。農村のみならず札幌の街中でも、庭や玄関先の水道で、ばあちゃんやおかあちゃんが大根を洗い、庭先やベランダに干している姿を見ることができる。冬とて生野菜に不自由する時代ではないが、これが代々受け継がれてきた風習なのだろう。しかし、それが都会生まれ都会育ちの若い世代に受け継がれるかは微妙で、街でそんな風景が見られるのも、もしかするとあと数十年限りなのかもしれない。
 間もなく雪が降り積もり、北の街にも本格的な冬が訪れる…(完)



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 もう間もなく、北海道も平野部にまで、本格的な雪便りが届くでしょう。そうなれば、秋の余韻に浸るまでもなく、冬へと季節は移ろい、雪と氷の季節となることでしょう。しかし、叶うことならば、残り少なくなった秋の季節の余韻に、今しばらくは浸っていたいとも思うこの頃です。
 それでは皆様、次の号までごきげんよう…


 
 

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