ブルースのCD(コンテンポラリ=新録)
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HEART AND SOUL ; SHUN KIKUTA WITH NELLIE "TIGER" TRAVIS
- Dirty Old Woman
- Thrill Is Gone
- Higher Ground
- I'd Rather Go Blind
- Let's Do It Again
- Muddy's Home (Song For Dr. Kantaro)
- Got My Mojo Working
- Chicago Midnight (What Have I Done Wrong?)
- Give Me One Reason
- Dreamer
- I've Got Amnesia
M&I MYCP-30043ここに出来立ての新録をお届けしよう。日本人として生まれながら、シカゴで現役バリバリのブルース・ギタリストとして活躍しているシュン・"フーチー"・菊田が、ヴォーカルにネリー・"タイガー"・トラヴィスを立てて出したのが本作だ。全編を通じて、タイトでよく跳ねるリズム隊と、まさにツボを心得たフーチーのギター、そして何より練りに練られたアレンジが光る秀作となった。軽快なシャッフル(1)からスタート、よくこなれたギターでのっけから乗せてくれる。続く(2)はイントロから「あの曲だ」と分かる、でも細かいところまで気配りのされたアレンジ。ネリーはこういったおさえ気味の歌に魅力を感じる。(3)のスティーヴィー・ナンバーから、現在のシカゴ・ブルース最前線がどのようなものかをうかがわせてくれる。録音にもっと金をかけられたら、より凄いものになったろうなと思う。続く(4)はエタ・ジェームズの大ヒットバラード。おそらくネリーの目標の1人なのだろう。よくこなれており、彼女の魅力が充分に引き出されていると思う。しかし上手いバッキング・ギターだなぁ。ステイプルスのミッド・ソウル(5)もよくライヴなどでやるのだろう。こなれた演奏だ。以上5曲はシカゴのクラブでの演奏をそのまま冷凍保存して僕等の下へ届けてくれたものだと思う。新鮮なうちにご賞味あれ。
さて、マディに対する強力なリスペクトを感じさせるアコースティック・ギターによるスライド・インスト・ナンバー(6)で変化をつけた後の(7)、これが本作のベスト・トラックだと思う。この超有名曲を素晴らしいアレンジで現代に蘇らせている。キメどころをしっかりと、しかも出しゃばらずに決める演奏。思わず身体が揺れてくる。そしてフーチー自らが唄う(8)、べらぼうに上手いとは言えないが、ひたむきに心を込めた歌だ。グッピーのマスターが「女声よりいい声をしてる」と誉めていた。しかしその歌を自らバックアップ゚するギターが素晴らしい。やはりブルースは自分で唄って弾くのが一番なのだろう。どんどん唄って欲しい。
トレーシー・チャップマンのヒット曲(9)は、ハーモニカ、スライドで変化をつけて懐の深いところを見せる。続いてファンキーなインスト(10)、ベースとギターの絡みが格好いい。メンバーの演奏技量の高さをうかがわせるナンバーだ。そしてラストはネリーのしっとりしたバラードでしめる。ここまで一気に聴いて飽きの来ない構成。フーチー渾身の一作と言えよう。
最後に今後のフーチーの更なる活躍を期待する気持ちから、あえて要望をあげたい。ひとつは以前から思っていることだが、「俺がシュン・菊田だ」という音を確立して欲しい。ギターをちょっと聴いただけで「これはバディ」「これはマディ」と分かるワン・アンド・オンリーが出てきたら、鬼に金棒だと思うが。それとジャケット。凝っているのだが、インパクトに欠けると思う。見ただけで買いたくなるようなデザインだともっと良かったな。でもとにかく好盤。ライヴが見られなかったのが悔やまれるけど、また来たときの楽しみにしよう。
PEOPLE LOVE THE BLUES ; SISTA MONICA
- You Got To Pay
- You're Only Good For One Thang Baby
- A Chance To Breathe
- Baby Workout'
- Ken ""Big Papa"" Baker Blows #1
- Honey It's Your Fault
- It's Not What You Say
- It's A Shame, It's A Mystery
- Someday Gonna Give Up Something Tonight
- Ken ""Big Papa"" Baker Blows #2
- People Love The Blues
- The Walking Wounded
- Put Your Shoe On The Other Foot
- Walk Around Heaven All Day
MO MOSCLE MMRE-688これは生きのいい新譜が届いた!シスタ・モニカ待望の3枚目は、期待に違わない素晴らしい出来だ。SKUNKが選ぶ2000年上半期のBESTに決定だ!
ラリー・マックレィの元気いっぱいのギターが印象的なロッキン・ナンバーで、いきなりシスタははじける。跳ね回るヴォーカル、でも決してがならず、ゆとりを感じさせる。続く(2)は「ワン・ダン・ドゥードゥル風のギター・リフをバックに、語りかけるように始まり、ロックっぽいコーラスでキメる。モダンな曲だ。(4)の軽快なシャッフル、タイトル曲(11)のエイトもかなりロックっぽいが、まったく違和感を感じさせない。(9)のシャッフルではゴージャスなブラスに負けず朗々と唄う。また、ファンキーな演奏に乗って語りかけるような(6)、タイトな演奏をバックにソウルフルに唄う(7)、(12)も御機嫌なファンキー・ナンバーだ。これらのほとんどが自作であるというのも恐れ入る。安易にスタンダードに頼らず、オリジナリティを追究するクリエイティヴな姿勢が、決して空回りしていない。本当に楽しみだ。
一方スロー・ナンバーでは見事な歌唱力を披露する。しっとりとした演奏に支えられたスロー・ブルース(3)では、大仰になりがちなところ、素直に自分の感情を表現しているため、聴いていてまったく嫌味を感じない。自作のソウル・バラードも同様で、落ち着いた演奏と歌が見事にマッチしている。一方でダウンホームなブルース(12)も見事にこなし、自分の世界に引き込んでいく。低音域から徐々に高音域に移っていくが、決してヒステリックにならない。余裕と言うべきか。
バンドのリーダー的存在で、モニカの音楽的支柱であったサックス奏者、ケン”ビッグ・パパ”ベイカーを昨年失い、彼女は一時かなり落ち込んでいたという。しかしこの作品ではそうした打撃を乗り越えて、更なる飛躍を目指すモニカのたくましさを感じる。その”ビッグ・パパ”をフィーチュアしたインストを途中にワンポイント的に挟み、彼に捧げられたこのアルバムに彩りを添えているが、見事なアクセントとなった。心憎い演出だ。そしてラストは「お約束」のゴスペルをア・カペラで唄い上げる。途中、モニカが敬愛するケイティ・ウェブスターと父親を歌い込みながら。
以上14曲53分、まったく飽きることなく聴き通せた。とにかく皆さんに聴いていただきたいアルバムだ。そしてモニカ、来日してくれないだろうか。生で見たい!
COME TO PAPA ; CARL WEATHERSBY
- Come To Papa
- Leap Out Faith
- Love, Lead Us Home
- You Better Think About It
- (I Feel Like) Breakin' Up Somebody's Home
- Walking Back Streets And Cryin'
- My Baby
- Floodin' In California
- A Good Man Is Hard To Find
- Help Me Somebody
- Danger All About
- Drifting Blues
EVIDENCE ECD 26108-2ことしのブルース・カーニヴァルに来日したカール・ウェザーズビーから素晴らしい新作が届いた。カールのソロ名義4作目で、それまでの彼の作品は、アルバート・キングの影響を色濃く見せながら、好きな音楽をあれこれ取り上げ、ギターを弾きまくると言った印象があった。しかしこの作品は、キーボードに今を時めくラッキー・ピーターソンを迎え、さらにメンフィス・ホーンズをフューチャーして、しっかりとしたプロデュースの下、カールの持ち味が上手に引き出された傑作だと思う。握手を求めるように、いや、「こっちへおいで」と誘うように手を伸ばしたカールの笑顔。ジャケット写真が作品のスタンスを物語っている。
まずはファンキーな(1),オリジナルはアン・ピーブルズの「カム・トゥ・ママ」で、よりゴージャスにアレンジしてある。当のアン姉御もヴォーカルに加わって、HIサウンドを思わせるような仕上がりだ。ラッキーもいかしたハモンドB-3のソロを披露している。続く(2)はミディアム・シャッフルのソウル・ナンバー。リトル・ミルトンあたりを思わせる曲調だが、ホーンに支えられるギターは、アルバートというよりはB.B.キング・マナーだ。カールの優しく暖かな声とよくマッチした佳曲だ。(3)はソウルフルなミディアム・ナンバー、マイナー基調だが途中ロックっぽいコード進行もあり、ギターソロもややロック的なアプローチだ。次の(4)もマイナーのブルージーなスロウ・ナンバー。リズム・ギターのリコ・マクファーランドの作。シンプルなバックに乗せて、カールのギターがよく歌っている。ラッキーのエレピ・オルガンでの好サポートが光る。
(5)で再びアン・ピーブルズのナンバーを取り上げるが、ベースはアルバート・キングのヴァージョンだろう。ヴォーカル、ギターともアルバート・マナーで迫るが、途中チキン・ピッキングを披露したり、芸の細かいところも見せる。この曲あたりがこのアルバムの狙い線だと思う。次の(6)もアルバート・キングがマイナー・キーでやっているが、こちらはリトル・ミルトンのヴァージョンを下敷きにしている。じっくりとしたスロー・ブルースで、味のある歌と猛烈なギター・ソロ(気持ちよさそうに弾くなぁ)を披露している。ソロに続くブレークのドラムがかっこいい。(7)は自作のソウル・ナンバー。コーラスを絡め、暖かい声で「マイ・ベイビー」と呼びかける。素敵なナンバーだ。(8)でまたまたアルバート・キング・ナンバー。ファンキーなブルースで、これは師匠に対する思い入れたっぷりな歌とギターだ。
(9)はいかにもラッキー・ピーターソン作といったファンキーなナンバー。ラッキーよりもカールの声の方が僕は好きなので、このコンビ、結構当りかも。一転(10)ではムーディでジャジーなミディアム・ソウル・バラードを披露する。シンプル且つ的確なバックに乗って、心温まる歌だ。カールの声にはこの手の曲はぴったりとはまる。ギターソロも存在感があり、これも名演といえよう。ライヴで見たい!続く(11)はオリジナル、ブルージーなマイナー・チューンだ。そしてラストはチャールズ・ブラウンの超有名曲で、ラッキーのジャジーなキーボードに支えられ、大人のムードで唄う。この曲は多くの人にカヴァーされ、唄い回しがオリジナルのブラウン・マナーになっているものが多い中、カールは自分の唄い回しで堂々と唄う。ギター・ソロも手数は多くないがよくこなれており、まさに百戦錬磨のカールの存在感を感じた。
カールにはもっとギターを弾きまくってもらいたいという声も聞こえ、それはそれで当然なんだが、このアルバムは、ヴォーカリストとしてのカールの魅力を、トータルなプロデュースの下で余すところなく引き出した作品だと思う。そしてよく練られた楽曲の中に挟み込まれるギターソロが絶品なのだ。僕はアルバムの完成度という点で、カールの4作品中やはり最高の1作として推薦したい。
なお、カール・ウェザーズビーについての詳しい紹介は、江戸川スリムさんのBlueSlimをご覧あれ。
SHOUTIN' IN KEY ; TAJ MAHAL & THE PHANTOM BLUES BAND LIVE
- Honky Tonk
- Ez Rider
- Ain't That A Lot Of Love
- Ev'ry Wind (In The River)
- Stranger In My Own Home Town
- Woulda Coulda Shoulda
- Leavin' Trunk
- Rain From The Sky
- Mail Box Blues
- Cruisin'
- Corrina
- The Hoochi Coochi Coo
- Sentidos Dulce
KAN-DU/HANNIBAL HNCD 1452タジ・マハル、この人のアルバムを「ブルース」のコーナーで紹介することには、幾分のためらいがあった。それは「ブルース・レコード・ガイドブック」「ブルース・CD・ガイドブック」(いずれもブルース・インターアクション)で紹介されていないことが理由ではなく、そうした「狭い」枠組みを越えたところに彼の本質があると思っているからだ。ただし、今掲げた2書がそうした観点からはずしたとは思えない。それはブルース・インターアクションの高地明氏が書いたブルースCD紹介本「ブルース決定版 -これがブルースだ!」(音楽の友社 1994)には取り上げられていることから伺える。逆に、先に掲げた「権威ある」ガイドブックが、ブルースの枠組みを「狭く」しているのだと思う。
さて、ビル・ドゲットの(1)の、原作にほぼ忠実ながら、絶妙なまでに緩やかなヴァージョンで幕を開ける本作は、「レコード・コレクターズ」2000年9月号のマシュー・グリーンフォールド氏の"Letter From L.A."によれば、現在の彼のステージングを見事に捉えた作品のようだ。デニー・フリーマンの的確だがユーモア溢れるギター、ジョー・サブレットのテキサス仕込み(イギリスで活動していたキーボードのミック・ウィーヴァーを除くと、このファントム・ブルース・バンドはテキサスで活動していた人ばかりのようだ)のハードなブロウが気分を盛り上げてくれる。タジはハーモニカ、ギター(リゾネイターも弾いている)、パーカッションと色々持ち替えながら、途中ハウリン・ウルフはたまたウルフマン・ジャックのようなだみ声のMCを絡ませながら、新旧いろいろな曲を折り交ぜてライヴを進めていく。初期のロック・フレーヴァー溢れる曲(2),(3)と、レゲエ風のゆったりした乗りの(4)が絶妙なコントラストを作り出している。(5)はパーシー・メイフィールドの曲(原曲未聴)だが、いかにもタジらしいリズムで魅力的なブルースに仕上がっている。
(6)は自作のソウルフルなバラードで、キーボード、ブラスともにムードを盛り上げる。自身の朴訥なギターソロも魅力的(この手のギター、大好きだなぁ)だ。(7)は初期の代表曲で、ジョン・エスティス(つまりスリーピー?)の作となっているが、このタイトルの吹き込みはスリーピーには見当たらないので、曲をもらったのか?フォーマットはブルースだが、演奏・歌はずっとロックしている。オリジナルに比べ、ブラスが曲を見事に盛り上げていて素晴らしいヴァージョンだ。タジも気合いの入った唄とハーモニカを聴かせる。(8)はブラスの効いたレゲエ、(9)はジミー・リードに通じるミディアムに揺れるブルースだが、コード展開がモダンでいかしてる。ハーモニカもテクニカルではないが味がある。こうした「味」がタジの最大の魅力だと思う。マイナーの(10)はタイトな演奏でジャジーなムードのトランペットがいかしてる。ジェシ・エド・デーヴィスとの共作で、これも初期の代表作(11)で自分の世界をしっかり示した後、ハンク・バラッドの(12)で軽快に乗せ、最後は思いっ切りジャジーでムーディなボサノヴァ風インストでしめる。素晴らしいライヴ構成だ。秋にはこのバンドで来日するという。見てみたい(ブルーノートは高いが)。
全体として、初期の曲が好んで取り上げられており、最近の「ブルース3部作」からの選曲は2曲と少ない。でもむしろ本来のタジの世界が余すことなく捉えられているのではないだろうか。ということは、やはり「ブルース」のコーナーにはふさわしくないのか?いや、ブルースの間口の方こそ、もっと広がるべきなのではないだろうか。というか、ボーダーレスな音楽の魅力をいっぱいにたたえたアルバムだと思う。1998年11月、L.A.のMINTでのライヴ。地味なジャケットが彼のスタンスを表しているようだ。
THE BEST THINGS IN LIFE ARE STILL MADE BY HAND ; WABI DOWN HOME BLUES PROJECT BAND
- Oh Baby
- Boogie 2000
- That's All Right
- Pretty Baby
- King Of Golden Cue
- I Can't Hold On Too Long
- I'll Go Crazy
- Act Like You Love Me
- Last Night
- Baby, I'm Home
- Can't Hold Out Much Longer
- Don't I Know
- That's All Right -take 2
ASIAN IMPROV AIR0057シカゴに活動の拠点を持つホーナー公認のハーピスト、ワビこと湯口誠司の初リーダーアルバムが手元に届いた。アルバムタイトル通り、ジャケットも「手」をテーマにしている。バックを務めるのはドラム以外は在シカゴの日本人ブルースマン(ベース・ギター)で、特にウッドベースの江口ヒロシは、すばらしいグルーヴでバンドを引っ張っている。ワビはそのプレイを(1)度聴けば分かるように、リトル・ウォルターに大いなるリスペクトを持っているようで、このアルバムもそうしたカラーがはっきり打ち出されている。まずウォルターの曲は3曲取り上げている。ウォルターのシャッフルとしては人気の高い(1)は、ややルーズな、艶のある雰囲気で唄う。ウォルターからの影響がはっきり伺えるが、「物真似」ではなくワビの歌になっているのがいい。ハープも奇をてらうことなくストレートに吹いている。リフのラインが印象的な(9)、ワビは「俺はこの歌が好きだ」と言わんばかりにじっくりと唄っている。(11)もリトル・ウォルターの代表的なスロー・ナンバー。オリジナルのねばっこいムードをほぼ忠実になぞりながらも、やはり歌・ハープともにワビの世界になっているのがいい。
ジミー・ロジャーズの曲も2曲取り上げているが、これもオリジナルではリトル・ウォルターがハープを吹いた曲だ。シカゴ・クラシックスの代表曲(3),(13)は比較的ハイトーンのねばっこい歌が印象に残る。バックも最小限の音でムードを盛り上げていく。特に(13)ではギターを抑え、ほとんどトリオのような感じで始まるテイク。ベースのライン取りのセンスが光る。歌もこちらの方が生きるように思える。一方(8)はギターのボトムリフとベースが作り出すハード・ドライヴィングなシャッフルで、ワビものびやかに唄い、吹いている。
この他はオリジナルだが、やはりリトル・ウォルターの影が見え隠れする。しかしマイナーキーの曲など、かなりいろいろなタイプの曲に果敢に挑戦しているという印象もある。(2)はリトル・ウォルターの「ユーァ・ソー・ファイン」のイントロフレーズで始まるシャッフル・インスト。ワビのバンプでリズムが押し出されていて心地良い。さらにベースのグルーヴが素晴らしく、ぐいぐいドライヴされて思わず身体が揺れてくる。(4)はマイナーのミディアム・シャッフル。クールなムードのオリジナルでせつなさが身に染みる。続く(5)はタンギングの効いたイントロで始まるアップのシャッフルで、これも気持ちよくドライヴしている。ギターソロにもう少しスリルがあればいうことなし。ちょっと「アズ・ザ・イヤー・ゴー・パッシング・バイ」を彷彿とさせるマイナーのスローブルース(6)は、しっとりと落ち着いたナンバーだ。
オンビートの強調されたダウンホームなシャッフル(7)は、ブレイクが曲にアクセントをつけている。(10)はジェリー・マッケインの「ステディ」のフレーズから始まるシャッフル。サウンド自体は往年のシカゴブルースのムードたっぷりで気持ちよい。特に最後のコーラスの盛り上がり方はライヴを眼前で見ているような錯覚に陥る。ギターのボトムリフが心地よいシャッフル(12)は、シンプルな曲だからこそバンドの実力が出やすいが、一丸となってうねるリズムはさすがだ。
全体を聴いてはっきり分かることは、50年代の最良のシカゴブルースを現代に蘇らせることをひとつの目標としていることだ。ただしピアノすら入らず、ギターとハープをフロントに押し立てたスタイルとなっている。おそらく制作費などの問題もあって、このようなシンプルな構成になったのだろう。従ってともすると単調な印象も受けるが、それをワビその他のメンバーのブルースに対する思いが上回っているように感じた。ヴォーカルの音程、ギターソロなど、細かいところをほじくり出したらいくつも難癖をつけることはできる。しかしそんなものなどどうでもいい程のスピリットがこのアルバムにはみなぎっている。メンバーのブルースに対する真摯な思い、これがこのアルバムを非常に魅力溢れるものにした。
DOUBLE DEALIN ; LUCKY PETERSON
- Double Dealing
- It Ain't Safe
- When My Blood Runs Cold
- Smooth Sailing
- Don't Try To Explain
- Mercenary Baby
- Ain't Doin' Too Bad
- Where Can A Man Go
- 3 Handed Woman
- Doin' Bad, Feelin' Good
- 4 Little Boys
- Remember The Day
BLUE THUMB UCCB-1003昨冬来日したラッキーの新作は、間違いなく彼の最高傑作だろう。ジャケットからも自信が満ち溢れているようだ。いきなり耳をつんざくようなギターから始まる(1)、原曲はジミー・マクラックリンだが、完全にラッキーの曲として仕上げられている。いつもよりギターサウンドがファットに仕上げられているようだ。ブラスも絡みゴージャスなサウンド、ギターソロも転調で盛り上げていく。それにしてもラッキーは歌にゆとりが感じられるようになった。続く(2)はレゲエ調子のリズムにドアのノック音。女性との会話から始まるファンキーなナンバー。ロバート・クレイのような内省的なものはあまり感じず、ブルースの「陽」の部分を強調しているように感じた。
ラッキーはアルバート・キングをフェヴァリットにあげているが、そのアルバートの好きそうなイントロから始まるスロー。かなりじっくり唄い込んでいる。ギターの音色はまるでロック、でもブルースに聞こえるのはラッキーのフレーズがまごうことなくブルースだからだ。続く(4)、きらびやかなピアノ(本人ではないようだ)から始まるエイトビートのブルース。ギターはまるっきりアルバート・キングだが、確信犯的にフレーズを弾いているのは明らか。こうなると「アルキン」もひとつのジャンルといえるかも知れない。ややトーンを落としたミディアム・ナンバー(11)でもギターソロはまたまた「アルキン」で、「俺はこういうフレーズが好きなんだ」と言わんばかりのソロだ。歌も演奏も抑えているが、いいアクセントになっている。
ラッキーはけっこうソウルフルな歌もレパートリーに取り入れている。ボビー・ブランドのナンバー(7)を、初めはさらりと唄っていたが、サックスソロから思いっ切り盛り上げていく。この抑揚がラッキーの大きな持ち味だと思うが、それを上手く活かしたナンバー。最後の弾きまくりギターソロ(ライトハンド付)とのコントラストが面白い。次の(8)は先ごろ亡くなったジョニー・テイラーのSTAX時代のナンバーを、比較的オリジナルに忠実にやっている。こうした歌でもっと色気が出てくるとさらにいいのだが。ちょっと意外なのはケブ・モーの(5)。しっとりしたソウル・バラードで、ギターも控えめな音にして歌を際だたせようとしているようだ。とにかくラッキーの歌には幅が出てきていると思う。ちょっと息抜きかな。
(9)はアンドレ・ウィリアムズ作のハードエッジなシャッフル。ラッキーは結構ヴォーカルで声色を使い分けるがそれがよく分かる曲だ。ギターは良く鳴っているが、ジャジーなコードプログレッションもあり、かなりモダンな印象を受ける。でも後半になるとほぼ弾きまくり。これは完全に計算されたプロデュースだ。オリジナル曲(6)はファンキーなミディアムナンバーだがあまりギターを目立たせず、リズムの粒立ちが良くなっている。これも軽めのナンバー。でも後半は結構ぐいぐいギター弾いている。(10)は細かいリズムのファンク・ブルース・ナンバー。オートワウのかかったようなクラヴィネットが効果的。こういったリズム・ナンバーでもっと持ち味を出していけたらさらに面白くなるように思う。そしてラストを飾るのは自作のハードなシャッフル・ナンバー。ラッキーのギタープレイが堪能できる。
「大音響はブルースにはなじまない」という考えの人はけっこういらっしゃるようだ。そうした人にはこのアルバムはとっつきにくいかもしれない。でもやっている本人はもはやそんなジャンル分けなどある意味では軽く越えているのではないだろうか。もちろんラッキー自身が「グラミー(ブルースだろう)をとる」と豪語していることからも、このアルバムはブルースの範疇に入るのだろう。でもここに来てラッキーは確実に一歩前に踏み出したと思う。
FROM AUSTIN WITH SOUL ; W.C. CLARK
- Snatching It Back
- Midnight Hour Blues
- I've Been Searching
- Don't Mess Up A Good Thing
- How Long Is A Heartache Supposed To Last?
- Bitchy Men
- Let It Rain
- Got Me Where You Want Me
- Got To Find A Lover
- Get Out Of My Life, Woman
- I'm Gonna Disappear
- Real Live Livin' Hurtin' Man
- I Keep Hanging On
ALLIGATOR ALCD 4884テキサスのブルーズン・ソウルマン、W.C.クラークから御機嫌な新作が届いた。「ジジ・メタル・ジャケット」の中に登場しても違和感のないジャケットの顔からは、およそ想像できないような、情念と繊細さが絶妙にミックスされた作品で、まさに「オースティンから魂を込めて」という名にふさわしい作品となった。
まずは(1)の粘りのあるヴォーカルでガツンと一発かまされた感じだ。タイトなドラムから始まるリズミカルなソウルナンバーで、原作のクラーレンス・カーターのヴァージョンをほぼ踏襲したギターのリフとコーラスが印象的だ。カヴァー曲は13曲中8曲。オリヴァー・セイン作のポップなアップチューン(4)は、フォンテラ・バスとボビー・マクルーアがCHECKERから出したもので、レーベルメイトとなったマーシャ・ボールとのデュエットで、なかなか息の合ったところを聴かせる。オリジナルよりリズムが強調されていてよりタイトに。マーク・カザノフのテナーが曲を盛り上げている。
カヴァー曲はアルバムタイトル通りソウルフルなナンバーに秀作が多い。(5)はこのアルバムのハイライトともいうべきソウル・バラード。ジミー・ルイスの曲であいにくオリジナルは未聴だが、じっくりと魂を込めた熱唱は感動的。落ち着いたギターソロからブレイク、ファルセットからシャウト気味の歌に転じるあたりは背中がゾクゾクする。ここからラストにかけてはまさに圧巻。またO.V.ライトのBACKBEAT時代のミディアムナンバー(3)も、ほぼオリジナルに忠実な、HIサウンドに通じるバックに乗って、丁寧に歌い上げている。特に高音域はオリジネイターのO.V.やシル・ジョンソンなどに通じるエモーショルな声で、これがクラークの魅力のひとつ。この曲などメンフィス・ソウル・ファンにお薦めだ。さらにジョニー・アダムズのバラード(12)も、オリジナルを大切にしてじっくりと歌い上げている。ジョニーのどこか透き通るような感じに対し、ややごつごつした肌触りで、より情感を前に出したクラークの魅力がよく出ている。
またテキサス・ギタリストとしてのこだわりの選曲もある。ゲイトマウス・ブラウンのPEACOCK時代の曲(2)がそうで、テキサススタイルのギターが大爆発。ごつごつしたシャッフルがモダンさを感じさせる中、トリッキーではないけれど、一音一音がが粒立ったギターソロが素晴らしい。ヴォーカルは腰の据わった歌い方で、オリジナルより落ち着いた感じだ。また御大ボビー・ブランドのDUKE時代のシャッフル・ナンバー(8)も、ほぼオリジナルに忠実な演奏で、おそらくオリジナルのクラレンス・ホリモンのギターにも敬意を払っての選曲だろう。ヴォーカルは抑制を利かせてある。
カヴァー曲は比較的元歌の味わいを生かしたものが多い中、唯一の例外といえるのはリー・ドーシーの(10)だ。ドロッとしたヴォーカルからスタート、後期のアルバート・キングを思わせるアレンジ(ただしアルバートの同曲のカヴァーとはまるで異なる)で、原曲のクールなニューオーリンズ・フォンクのイメージを一転させ、重心の低い演奏にエモーショナルなヴォーカルとギターを乗せてインパクトの強い1曲に仕上がっている。
一方オリジナルの5曲はさっぱりした印象の曲が多い。全体を通じてロバート・クレイとの共通点を感じさせるクールなものが多い。その代表はマイナーのブルーズン・ソウル・ナンバー(7)で、ぐっと抑えた感情が曲の端々から溢れ出ようという感じの歌で聴き応えがある。ギターソロもクレイを意識したのではないだろうか。また、技巧に走らないヴォーカルと、練り込まれたギターソロが絶妙のバランスのシャッフル・ナンバー(11)、ベースとパーカッションがクールなファンクネスを醸し出す中、適度に抑制された歌とギターを聴かせる(13)なども、クレイとの共通点を感じさせる。
この他、大熱唱の(5)のあと、軽くクールダウンする感じのファンキーな(6)は、2本のギターによるリフが印象的で、丁寧なギターソロが曲を締めている。また(9)はモダンなミディアム・ソウル。パーカッシヴで70年代のニューソウルの香りを感じるが、それでもどことなく泥臭さを感じさせるのがクラークの個性かな。
BLACK TOP時代からクラークのアルバムは好感度が高かったが、このALLIGATOR作は同じ制作体制の中、よりインパクトの強い作品となっている。選曲のバランス、伝統とオリジナリティの絶妙な調和、大傑作といってよいと思う。う〜ん、来日しないかなぁ。
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