ローウェル・フルソン
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僕にとって最高のブルースマン。なにしろ初来日の時、六本木で同じラーメン屋でラーメン食べたんだもの(サインもらっとけば良かった)。あの1980年のライヴ盤には、僕の歓声がはっきり収録されている。
B.B.キングをして「眠れる巨人」と言わしめたフルソンは、1921年3月31日、オクラホマのタルサで生まれた。ネイティヴの血*1も流れているせいか、ややオリエンタルな顔立ち(伊東四朗に似ていると思っているのは僕だけだろうか)をしている。ゴスペルやカントリー・ミュージックで音楽に目覚めたフルソンは、オクラホマ・ストリング・バンドで音楽活動を開始、その後テキサス・アレクサンダーと行動を共にし、テキサス州ゲインズヴィルに移住する。「リヴァー・ブルース」のようなテキサス・カントリー・ブルースの名作は、この時代にマスターしたのであろう。B.B.キングの出世作「スリー・オクロック・ブルース」のオリジネイターもフルソンだ。さらに一時はフルソンのバンドにいたレイ・チャールズは、「シナーズ・プレア」を取り上げているが、フルソン初来日の時の演奏から想定しても、本来カントリー・ブルース色の強い曲であった。
しかし、フルソンの魅力がより発揮されるのは、ホーンやピアノ(ロイド・グレン!)をくわえたバンド・スタイルだと思う。第2次大戦で海軍に従軍、グアムでルイ・ジョーダンの「カレドニア」などのバンド演奏を経験した。戦後、カリフォルニアのボブ・ゲディンズの下で録音を開始、当初は上述のようなカントリー・タッチの強い曲が多かったが、このスタイルへの限界を感じ始め、ピー・ウィー・クレイトンの助言などもあって、ピアノ(キング・ソロモンなどがつとめていたが、1949年から長年の相棒になるロイド・グレン)、アルト・サックスのアール・ブラウン(1947年加入当時10代)などとスモール・コンボのバンドを結成する。そして1950年代に入ると、「エヴリデイ・アイ・ハヴ・ザ・ブルース」(1949年録音、オリジナルはメンフィス・スリムとされている)「ブルー・シャドウズ」「ロンサム・クリスマス」「ナイト・アウル」といったヒットを SWING TIME などから連発する。ウエスト・コーストのややゴージャスなスモール・コンボのブルース、しかしどこか哀愁というか「いなたさ」をたたえた歌、そして噛めば噛むほど味のでるスルメのようなロープ・ギター*2。このスタイルの決定打はシカゴの「全国区」レーベル、CHESS からリリースされた「リコンシダー・ベイビー」であろう。ボビー・ブランド、リトル・ミルトン、フレディー・キング、エルヴィス・プレスリー、エリック・クラプトン、ブルー・ヘヴン・・・と、この曲を取り上げたアーティストは数多い。ブルースの大スタンダードのひとつといえよう。
フルソンはモダンな音にも敏感であった。60年代に入ると、MODERN = KENT レーヴェル(このころから70年代末まで、フルソンは名前を Loewll Fulsom と綴るようになる)で、ジミー・マクラクリンと組んで、「トランプ」(浮浪者の意。アルバム「Tramp」のジャケットに写るフルソンの姿を見よ!)というファンキー(フルソン自身はロックと呼んでいたようだ)な大ヒットを出す。オーティス・レディングがカーラ・トーマスと組んでカヴァー、本人以上のヒットにしてしまったが。この時代の MODERN = KENT の音作りは、シャッフル系の曲でも頭のビートを強調したものが多く(P-VINEから出ている MODERN = KENT のシリーズ「West Coast Modern Blues '60's Vol.2」を聴くとこの感じがよく分かる)、この手の代表曲としては「ブラック・ナイト」(チャールズ・ブラウンの曲とは同名異曲)があげられる。KENT から出ていた代表的なLPが「Tramp」と「Soul」(P-VINE が 2on1 でCD化)だが、「ブラック・ナイト」は両方に収録されていた。
その「Soul」には、ブルースの名作がずらりと並ぶ。「トーキン・ウーマン」(アルバート・コリンズも演ってたアップ・テンポの曲」なども良いが、「シャッタード・ドリームズ」「シッティン・ヒア・シンキン」「トゥー・メニー・ドライヴァーズ」と、渋い曲がずらり!「Tramp」が、ややもすると似たパターン({ブラック・ナイト調」の曲が並んで飽きることがあるのに対し、まったく飽きない!もー幸せ!最近「Now!」「Lavemaker」が P-VINE からリイシューされたのがうれしい(なにしろ「ファンキー・ブロードウェイ」とかやってるもんね)。
その後はそれほど派手なレコード・ヒットがあったわけではない(時代が時代だから)が、おそらくクラブでは熱い音を聴かせていたのであろう。その証明が1980年の来日公演であった。僕は六本木ピットインの初日(1日だけだったかも)の第1部を観たが、ベースのデニス・ウォーカー(ロバート・クレイの初期のアルバムでベース弾いてた)あたりがちょっとリハ不足で、合わない(曲は壊していない)部分もあったが、「生のブルースとはかくあるもの」をまざまざと見せつけられた思いがする。「ユー・ゴナ・ミス・ミー」のイントロ直後、全員総立ちで「イェー」だもんね!第1部では弾き語りは観れなかったが、あの音がCD化されたのは喜ばしい。
晩年(1999年3月惜しくも没)は ROUNDER や BULLSEYE からアルバムをリリースしていて、それはそれでファンとしてはうれしいんだけど、やっぱりあのライヴを越えるものは出てこない。でも、派手なギターも歌もないけれど、トータルにブルースを表現し、先進的なものと伝統的なものとを見事に、迷うことなく融合したフルソンは、もっと日本でも高く評価されるべきだと思う。
フルソンについてのまとまった記述は、僕の思いつくものでは、「ブルース・レコーズ・ガイドブック」の高地さんのもの、「ブルース&ソウル・レコーズ No.12」の詳細なディスコグラフィー、「レコード・コレクターズ 1999年6月号」の小出さんによる「ブルースギター・西東」がある。特にBSRのディスコグラフィーは、鈴木さん中心に、非常に参考になる。でも、仲々売ってないんだよね、CD。
*1 父方の祖母がチェロキーで、実の母がチョクトー。オクラホマは、19世紀後半には、北部にチェロキーの居留区、南部にチョクトーの居留区があったようだ。タルサは北部の都市。
*2 ロープは"lope"で、「大股で歩く」「跳ねる」といったような意味で、フルソン自身が自分のギター・スタイルをこのように形容していたそうだ。(日暮泰文氏の補注「ザ・ブルース」42号 p.5)
画像は上からSwing Time Record Story (CAPRICORN 9 42024-2 2枚組) のブックレット。いいデザインだ。 Hung Down Head (CHESS/MCA MVCM-22011 日本版)。この顔が僕に似てると言った人がいた。 Tramp & Soul (P-VINE PCD-3006) の「Tramp」 The Blues Show! Live At The Pit Inn (YUPITERU YR-23-4003) これは日本での画像。
参考文献は、本文中に紹介された記述および各CDのライナーノート
Robert Santelli 「The Big Book Of Blues」A PENGUIN BOOK